ある少年の詩

 窓の外には雨が降っていた。


 彼女はピアノを弾いていた。


 トン──トン──とゆっくり音の歩みを進めた。


 確実な一歩だった。それでいて軽やかだった。


 雨粒一つ一つを感じるような音霊。旋律は弦を伝って彼女の世界を創造する。


 指から音が出ていた。鍵盤は彼女にとって色のパレットだった。


 高低を器用に使い分けて混色した。彼女の音には描く力があった。


 虚空に残響の軌跡が現れた。


 僕は絵を奏でることしか出来ない。だからせめて彼女には音で描いていて欲しいのだ。

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