キッカケ

 ある夏の出来事。早朝から雨がさらさらと降り続いていた。


 マンションが密集するこの場所は行き過ぎた都市開発のせいで水捌みずはけが非常に悪い。そんな訳でそこらかしこに水溜みずたまりができる。


 僕は窓辺から川のような水が流れる側溝そっこうを見ていた。その日は何もすることがなかった。ただぼんやりと、その様子を眺めていた。


 小舟を流したら面白いだろうなと思った。水溜りを泳げたらどんなに気持ちいいだろうと想像した。でも行動には移せなかった。何故なら、僕はもう高校生だから。


 親友を家に呼ぼうと考えた。いや、それはないだろう。長話に付き合わされるだけだ。学校で会うくらいが丁度良い。


 ではどうするか──


「……散歩でもしてみよう」


 僕はその日、なぜだか外に出る決断をした。雨が降っているにも関わらずだ。雨なんてものはいつか止む。家で読書でもしていれば暇くらい簡単に潰れるだろう。


 それでも僕は外へ踏み出す決心をした。群青色ぐんじょういろの傘と長靴を履いて。あくまで暇を潰すのが目的だった。


 しかし、今考えてみるとどうだろう。僕はなんのために外に出たのだろうか。何か別の目的があったのではなかったか。

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