二十六日の彼

  二十六日の彼


 『人生のほんの一瞬をすれ違った』、歳頃から言っても愈々そんな言い方で差し支えなくなっている。長く生きすぎたとニヒリズムに傾倒する程でもないが、それでも不在の時間が長い事に違いはない。


 そんな相手に人生を捧げる事を訝しみ、度を過ぎれば憎む手合いも在った。


 「お前を捕まえて離さない彼が許せない」


 良い台詞だ、愛の告白なら一等級与えても良い殺し文句だと思う。残念ながら友人として衷心より案じての其れだった様だが。全く色気の無い。


 時間に反して縫い止める事物が多い事にも多少基因するのやも知れない。使い古したオイルライターの錆を撫で乍らそんな物思いに耽る事も少なくない。


 その日が誕生日と知らされたのは前以ての事だっただろうか。其の当たり記憶が曖昧だが、酷く慌てた事だけは確かだった。溜め込んだ小遣いは多少の持ち合わせが有った筈だが買い物に出る暇は無い。取り敢えずにと家族旅行の手土産に購入した鍵飾りを渡した。蹄鉄を模した物だったが、其れが幸運の象徴とは当時知らなかった。


 「パズルになってるから遊んでみると良いよ」

 此の一言が余計だったか、或いは妙手だったのか。数日を経て「解けないよ」と突き返された鍵飾りは今も手中に有る。

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