六月のある日
六月のある日、八百屋の前を通ったときのことだった。背中に何か当たったような気がして、何気なく振り返ると、植物のつるが背中にまきつこうとしていた。僕はとっさに持っていたビニールがさを差し出すと、つるは凄い勢いでそれに巻きつき、あっという間にかさを持っていってしまった。ああ、夕方の降水確率70%だってのに。僕はちょうど頭の真上にきているはずの太陽をながめようとした。見えなかった。空はどんよりとしている。
少し冷静になって辺りを見回してみると、八百屋の店頭に並べてあるすいかからつるがうねうねと伸びて、そこらじゅうのものに巻きついている。すでに八百屋のなかは見えない。八百屋の主人はどうなったんだろう。
ふと、悲鳴が聞こえた。そちらに目を向けると、運悪くつるにつかまってしまったらしい男がひきずられて行く所だった。男は何とかつるを引き剥がそうともがいていたが、やがて八百屋のなかに引き込まれてしまった。
僕を含めた通行人は、この異常といえばあまりに異常な事態に呆気にとられていた。姿が見えなくなっても男の悲鳴は続いていたが、しばらくするとそれも消えた。同時に、それまで見物していた人々はパニックに襲われたように騒然となった。皆、一斉に逃げ出した。僕も、何が何だか理解できないまま走った。
その日はそのまま家に帰って、すぐに寝た。悪い夢だと思いたかった。
次の日の朝、例の八百屋に行ってみたのだが、そこには何も無かった。
まるで、最初からそんな八百屋なんか無かったかのように。
それから少したったある日。テレビをつけるとニュースをやっていた。都心にすいかのつるの化け物が現れ、莫大な被害をもたらしたという。そのときの映像が流れたが、そのすいかは僕が見たときよりはるかに大きくなっていた。つるを上手につかって移動している。自衛隊による攻撃が行われたが、あまり効果は無いようだった。結局、すいかは街で一番高い建物の頂上に居座ったらしい。
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