第4話 白雪姫、シンデレラ、人魚姫、茨姫、ラプンツェル 茨と塔の時間
「さぁて! 愚痴を言い合う僕らのお茶会には珍しいしんみりとした雰囲気になったところで! それをぶち壊す僕の話をしようか!!!」
「待ってました!!!」
「これを待ち望んで良いのでしょうか……?」
「さぁ?」
静けさを積極的にぶち壊すタイプの白雪姫と茨姫が叫ぶ。メンタルが強いというか単純に暗い雰囲気が苦手なだけである。
「僕の話は大体愚痴になるかな。なんせ十三人目の魔女には恨み辛みしかないからね!」
「まぁ殺されかけてるものね」
「でも、十二人目の魔女に助けられたのでしょう?」
茨姫は十三人目の魔女に呪いをかけられ、それを十二人目の魔女に『百年の眠り』に変えられた。
「魔法の全てが悪いとは言わないさ。言い換えれば、二人の魔女のおかげで百年眠り、
恍惚とした表情で自分の夫への思いを馳せた後、
「だからって恨みが晴れるわけではないよ! 超常現象なんて凡人が手出しできない領域で勝負仕掛けて来やがって! 正々堂々戦え! 卑怯者が!!!」
キレながらの満面の笑みという器用な表情になり、空想の十三人目の魔女に中指を立てた。
「茨様が……凡人……?」
「そこは気にしない方が身のためよ、シンデレラ」
「茨ちゃんと付き合いの長い白雪ちゃんが言うと重みが違うわね」
何なら魔法も使わない種族人間としては一番超人説がある。
「そもそも金の皿が足りなかったのも、宴に招待されなかったのも僕のせいじゃないだろう!? 報復で僕に呪いをかけるとはどういう了見だい!?」
「子供に恵まれない夫婦相手ならば、その一人娘を狙うのは効率的ですわ」
「めっちゃ冷静に分析するじゃない」
意外とシビアな世界観産まれのラプンツェルの発言に、若干引く白雪姫だった。白雪姫の世界も中々に殺伐としているため人のことは言えないのだが、それに気づいた魔法の鏡は割られたくないので口(?)を噤んだ。
「それに『紡ぎ車の錘が指に刺さって死ぬ』って何なんだい!? 確かにあれは凶器ような形状だけれど、僕は指に少し刺さった程度だよ? どう考えても魔法で何か仕掛けてあっただろう! あの老婆、姿も態々変えて姑息なんだよ!!!」
「お、落ち着いてくださいな! 茨様!」「一回紅茶飲もう? ね?」
「あ、すまない。つい、気持ちが高ぶって大声を出してしまったよ。まぁでも、せめて『大男に殴りかかられて死ぬ』とかにしてほしかったね。それなら対処できる」
「それに対処できるのもおかしい気がするのですけど……」
「鍛えたからね」
「わぁそうなのね」
「白雪ちゃんが諦めたら誰もツッコめないわ」
茨姫のあまりのたくましさに、白雪姫も遠い目になった。
「まぁ十三人目の魔女は
「その……仲睦まじそうで何よりだわ」
テンションぶち上げでお送りした後は、ラプンツェルの話である。
「お次はわたくしの番ですわね?」
「ラプンツェルは何と言うかこう……特殊よね」
「聞くところによると、塔の魔女ってあんま魔法を使わないっていうか……何か、魔女っぽくないわ」
「塔の魔女は魔力量が少ないらしく、あまり魔法を使いませんの。塔に登るにもわたくしの髪を伝わなければいけないほどでしたわ」
「浮遊魔法も転移魔法も使えないということですね」
ラプンツェルは、塔の魔女は火を熾したり風を吹かしたりと、生活に使う程度の魔法を使っているところしか見たことがないらしい。
「それで、確かあんたの旦那が失明したのを涙で治したんだっけ?」
「素敵な話よね」
人魚姫がうっとりと目を細めながら言う。彼女自身が悲恋だったのもあり、こういった奇跡の恋物語を好むらしい。
「旦那様に仕えている魔法使い様によりますと、わたくしの涙で旦那様の視力が回復したのは、魔法の一種らしいですわ」
「それ、魔女のおば様から聞いたことがあります。確か、髪の毛や血など、自分の体の一部を媒介とする魔法が存在すると……」
「えぇ、そうですの。国の魔法使い様は、呪術に近いとも言っておりました」
「関係ないけど、今この部屋のお上品度がすごいことになってるわ」
「僕たちの会話ではありえない光景だね」
一応白雪姫、茨姫、人魚姫の三人も高貴な血筋のお姫様なのだが、何分本人たちの気質がそれぞれ我が儘、好戦的、お転婆のためどうにもお上品からはかけ離れるのだ。
「魔法が使えるの、ちょっと羨ましいわ」
「あ、自分は魔法判定されてないんすね」
「あんたは黙りなさい」
「うっす」
世界のあらゆることを知る魔法の鏡を持っているのも十分すごいのだが、白雪姫はそれ以上に自分自身が不可思議な術を使いこなせる、というのに惹かれてるらしかった。
「白雪様も、魔法を使えないというわけではないと思いますよ?」
「本当!? シンデレラ!」
「私も鮮明に分かるわけではありませんが、恐らく魔法の道具を使いこなせてる辺り、その資格は十分にあるかと」
「それ、僕もできたりするのかい?」
「茨姫様の世界に魔女様がいるのでしたら、魔力全くない……という可能性は低いですね。それに、良くも悪くも呪いをかけられた方は魔力と密接になりますから、魔法を使う感覚が理解しやすいかもしれません。
……もし魔女のおば様が製作している魔法の鏡が完成したら、私の住む世界にいらっしゃいませんか? あちらには魔法書が多くあるので指南もしやすいですし……」
「それは良いわね! 皆でシンデレラの世界にお邪魔しましょう!」
「わ、わたしも!」
「僕も魔法には興味があるんだ。是非ともお願いするよ」
「ご迷惑でなければ、わたくしもご一緒させていただきたいですわ」
「はい、皆様がいらっしゃるのが待ち遠しいです」
「ふふ、楽しみね!」
白雪姫
一人称はあたし。魔法の鏡の一人称は自分。鏡の一人称とは……?
魔法の鏡は付喪神のようなものだと、本人——本鏡から聞いている。
実は魔法具が他にも宝物庫にもっとある。魔法の鏡のついでに、持っていける限り持って行った。
最近の悩みは付喪神の意味が分からないこと。あの子なら知ってそうね。
シンデレラ
一人称は私。
姫たちの良心その1。物腰柔らかだが、止めるべきところはしっかりと止める。流石子持ちの母。皆のママ。
実は使える魔法は少しどころではない。魔女を名乗れるレベルで優秀。
最近の悩みは夫がお茶会にもついて来ようとすること。
人魚姫
一人称はわたし。
姫たちの良心その2。圧倒的光属性。あまりの無垢さに見る者全てが癒される。
海の魔女が大好き。多分この後、シンデレラが魔法で海の魔女のところに連れて行ってくれる。
実は空気の精霊だったころに使えた魔法は今も使える。
最近の悩みはこのお茶会の後、やたらと温かい目で見守られること。空気の精霊だったころを含めれば、皆より断然年上なのに……。
茨姫
一人称は僕。公的な場では「私」、私的な場では「僕」。一人称を使い分けている。
男として育てられてきた+親友の白雪姫が割と俗っぽいのでキレると言葉遣いが荒くなる。
十二人目の魔女には命を助けられたこともあり、普通に感謝している。
人を褒めるときは植物で例える。
実は目覚めた後、十二人の魔女を城で雇っている。
最近の悩みは十二人目の魔女がシンデレラのところの魔女に弟子入りしたいと頼み込んでくること。百年前の力不足をまだ気にしているらしい。
ラプンツェル
一人称はわたくし。
姫たちの良心その3。奇跡を起こしたお姫様。姫の中では比較的常識人。そのため、目立たないこともしばしば。本人としては友人たちが話しているところを見るだけで楽しい。
The・お嬢様、といった話し方。箱入りお嬢様ならぬ塔入りお嬢様。
趣味はヘアアレンジで、髪が伸びてきてからは色々な髪型を試している。髪飾りを選ぶのも好き。誕生日に夫からノヂシャの花の髪飾りを送られた。夫とのデートのときは毎回つけている。失くすのが怖いので、普段はつけていないらしい。
なお、巨乳。大きさとしては茨姫=ラプンツェル>シンデレラ。
他の姫たちを髪色や髪の長さで呼ぶ。
少し前まで茨姫に苦手意識を持っていた。あの子は全く悪くないのよ。でも、夫が一度失明した理由が茨だから……。
実は魔力量は多いが、媒介なしでは魔法が使えない。国の魔法使い曰く、「幼い頃から魔女と共に生活し、同じものを食べ、同じ空間にいたことで、本来秘められるはずだった魔力が発現したのではないか」とのこと。
最近の悩みは試したい髪型がありすぎること。
※今更ですが、姫たちの本名(完全に創作)です。名前に込められたイメージも調べながらつけてみました。ラプンツェルは
※姫たちがこの本名で呼び合うことは(今のところ)ありません。
白雪姫→
シンデレラ→
人魚姫→
茨姫→
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