ターニングポイント
第107話 →受け入れる
今のは何?
どうやら『私の力でクリシの前世を見た』ということらしいけど、
それにしても訳の分からない状況で、
訳の分からない存在に訳の分からないことをまくしたてられた。
要するに訳が分からない。
ちょっと整理させてほしい。
おはようさんに触れていた手を放す。
いや、彼女はそんなへんてこな名前ではなく、クリシという人間だ。
……人間と言っていいのかも、怪しいらしい。
彼女は私の想像する『リアルな人間』ではなく、なんというか、
ゲームのキャラクターのようなものだという。
しかし彼女はただプログラム通りに動いているわけではなく、
内に宿す魂に突き動かされているのだ。
それなら人間か。
それに今の私も同じなんだし。
仮に人間とは呼べない存在だとしても、私と同じ種族だ。
まぁ、この辺はあまり重要じゃない。
気にしないでおこう。
クリシは私の知らないところで、私のために何度も命をかけてくれたそうだ。
その力で何度もバッドエンドを否定しては、別のルートを模索してきた。
だから今の私がある。
私は何も知らなかった。
しかしそれでも、クリシにとって満足できる結果にはたどり着けなかったらしい。
それは余程私の状況が積んでいるのか、クリシが欲張りなのか、その両方か。
ともかく、そんな状況を永遠と繰り返してきた。
そして『これ以上続けられるのは都合が悪い』と、神様的な存在が介入してきた。
神様は私に、この物語を俯瞰するメタ視点を授けることで、
私が今までなかったルートを見付け、ハッピーエンドに導くことを期待している。
このクリシの魂から生まれた無限ループというバグを抜け出すための答えを、
私が導き出すことを求められている。
神に。
うーむ。
重過ぎる!
もっとこう、『チートスキルを授けるから魔王を倒してね』くらいのわかりやすいギブアンドテイクであって欲しい。
[僕は倒れていた?]
そんなことを考えていると、クリシが私の手の平に触れ、文字をなぞった。
いつの間にか起きたらしい。
何と答えようか?
[おはよう]
いつも私がクリシにかけられていた言葉を返してみた。
[私に触れた?]
やっぱり、それを気にするらしい。
よほどループのことを知られたくなかったのだろう。
[うん]
[ごめんなさい]
震える手で、そうなぞられた。
何を謝っているんだろう?
[私はあなたに救われた]
クリシは私に対して、そう思ってくれているらしい。
私の実感としては、正直身に覚えはないんだけど。
ただ、そう見えるような出来事は確かにあったようだ。
しかしそれは
見方を変えると、私がクリシをこんな辛い道に引きずり込んだにも元凶にも見える。
[なのにあなたを裏切った]
そう見える出来事もあったらしい。
[なのにあなたを殺した]
そんなこともあったかもしれない。
クリシの圧縮されたおぼろげな記憶の中では、
そのようにしか見えなくなっているんだろう。
しかし、その一言で終わらせてしまうのは違う。
[考え過ぎ]
それだけ伝えた。
今の私にはボキャブラリーが足りない。
[僕たちは狙われている。
きっとまた、助からない。
ごめんなさい。]
また謝られたしまった。
どうもこのままだと私たちは死んでしまうらしい。
そしてまた、クリシは後悔とともにループするのだろうか。
[もう十分]
[十分?]
[十分、幸せだった。
あなたのおかげで。
ありがとう。]
私はクリシの体を抱きしめた。
あまりに言葉足らずだけど、せめて気持ちが伝わるように。
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