3-6 8/23(vi)

「世界の誰からも必要とされないような長い時間より、世界が美しいと認めてくれる一瞬の方が、よほど価値があるとは思いませんか。理想の生き方を望むことができなくなったわたしが、理想の消え方を望むのは、おかしなことでしょうか」

 僕は何も否定できなかった。それは、ある部分では本質的に自分が本浄と同じだったからだ。自分が<孤独>であり、それが<世界>にとっては邪魔で不都合なものであるということを痛いぐらいに理解できていたからだ。僕等は世界に不必要だと言われ、汚いと罵られる。それに対して何ひとつ反論する言葉を持ち合わせていない。


 僕はしばらくの時間をかけて彼女の語った言葉を飲み込んだ。

「本浄が話してくれたおかげで、僕の中で疑問だった色々なことがわかったよ」

 どうして他人と話さない彼女が、他人と話さない僕に声をかけたのか。どうして流星群の写真を撮ったときに釈然としない顔をしていたのか。どうして自分が消えるとわかってもなお、写真を撮り続けることを選んだのか。それらすべての理由を知った。

「わたし自身が消えていくため、そんなことのために日向野くんを付き合わせたことは本当に申し訳なく思っています。これ以上、わたしとは関わらなくて構いません」

 本浄は最後にそう言った。僕は「そんなことないよ」と返した。本心だったはずなのに、何の力も持たない返事だった。それきり言葉が途切れて、僕らは視線を上に向けていた。

 僕らは長い間、ただひたすらに夜空を見つめた。二人で寝転がって見上げる空はあんまりにも綺麗だった。でもやっぱり、全部の星が泣いているように見えた。どこかで王子様が笑っているような小さい星は、どこにもなかった。


「あの星に帰りたいです」小さくて見えない星を指差し、消えてしまいそうな声で呟いた。「わたしの生まれた星は、きっとこの星じゃないから」

 隣の顔を見る。彼女は泣いていなかった。ここまで追いやられても、全ての星が泣いていても、彼女自身は泣くことを許されないのだ。

 それはほんとうに、悲しいことだと思った。

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