私の兄は鉄になった。

インドカレー味のドラえもん

私の兄は鉄になった

 兄が死んだ。

 

 風の噂によれば、どこぞの街でヤクザの真似事をして、誰かに殺されたらしい。

 きっと碌な死に方をしないだろうと思っていたが、まさか殺されるとは。


 兄は世間一般から見れば悪い人間だったが、悪い兄では無かった。 

 少なくとも、私にとっては優しい兄だった時期もあるのだ。


 私が虐められていた時は腕の骨を折る怪我を負ってまで助けてくれたり、父と喧嘩し家を飛び出した私を20キロも離れた街で見付けてくれたのも、やはり兄だ。


 兄は高校に上がったあたりから悪い友達と付き合うようになり、悪い遊びを覚えてしまった。

 喧嘩や万引きから始まり、恐喝やドラッグ。

 そんな風に散々迷惑を掛けて、ある日突然私達の前から消えた。


 ……兄の訃報が届くよりも前。

 父と母は、兄が蒸発した時、あいつは死んだと言っていた。

 ずいぶん迷惑をかけられていたから、きっとそう思いたかったのだろう。

 今思えば、殺人や強姦が無かったのは幸いだったかもしれない。


 火葬炉が開く。

 今、この場所には私しか居ない。


 兄と両親が最後に顔を合わせた最後の機会は警察の死体安置所に更新され、それで終わり。


 棺台車が引き出される。

 兄は、骨も残さず消えていた。


 ……死に顔を見ても平気だったのに、残されたステンレスの板を見て、私はようやく涙が出た。


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私の兄は鉄になった。 インドカレー味のドラえもん @katsuki3

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