破
薄暗い室内にはさまざまなロボットが所狭しと並べられていた。
「気味が悪いわ」
とマリア。
「つまらないわ」
とアンナ。
無論スワニルダとて似たようなことを思っていた。
「ちょっと触ってみよっと。……動かないわ、これ。試作品なのかしら」
マリアがスワニルダに話しかけた。
「スワニルダ。あなたの恋敵はどこにいるの? 」
「いつもはベランダよ」
すっかり退屈していたアンナはこれ幸いと大声を出した。
「出てきなさいよ、この女狐! 」
返事はなかった。
「ねえ!何とか言いなさいよ! 」
またも返事がない。アンナは苛立って二階へと駆け上がった。スワニルダとマリアも慌てて二階へと駆け上がる。アンナは前をよく見ずに走っていたので何かにぶつかった。
「え?なにこれ? 」
それは人間、のようなロボットだった。鋼鉄の素材が剥き出しで、背が人間よりも高く、電源は入っておらず動かない。アンナもマリアもスワニルダも呆然とした。一番最初に我に返ったのはスワニルダだった。
「びっくりしたわ。人間かと思った。よく見たら大きな人形じゃないの」
マリアが口を挟んだ。
「いいえ、スワニルダ。これはロボットよ。よく見たらスイッチがついてるじゃない」
「あら本当だわ」
二人の会話にアンナが続く。
「こっちを見て!似たようなのがたくさんいるわ! 」
アンナの言葉通り、二階には様々な人型ロボットがひしめいていた。ひたすら歌を歌う子どもくらいの大きさのロボット。老人のように椅子に座っている骨格だけのロボット。どれも人間に似せてある。人型ロボットを初めて見た三人には、気味が悪かった。
「このガラクタはなんなのよ。何で人間に似せてあるのかしら」
三人を代表してマリアが言った。
「見て!ここからベランダに出られる! 」
アンナがガラス戸を指さした。スワニルダは頷いて、ガラス戸を開きベランダへと踏み出した。そしていつも通り本を読んでいるコッペリアに向かって、手を差し出した。スワニルダがコッペリアの手を握ると、コッペリアはスベスベの手で優しく握り返した。
「あなたはロボットなのね」
とスワニルダ。コッペリアは首を傾げて、スワニルダから手を話すと、再び本を読む作業に戻った。
アンナとマリアはすっかり気味悪がって、一階に降りてしまったが、スワニルダはしばらくコッペリアを見ていた。憎き恋敵はスワニルダなどいないかのようにページをめくっていた。
すると、
「おい!何をしている! 」
コッペリウスが帰ってきた。
アンナとマリアは一目散に逃げ出したが、逃げ遅れたスワニルダは二階の適当な部屋に逃げ込んで扉を閉めた。
「薄汚い小娘どもめ。まさか二階に上がってないだろうな」
コッペリウスはぶつぶつと独り言を言いながら、ドスドスと歩き回った。スワニルダは生きた心地がしなかったが、コッペリウスはやがて気が済んで、歩き回ることをやめた。
スワニルダはほっとして、さてどうやって逃げ出そうかと部屋を見まわした。大きなタンスに目が止まった。スワニルダが恐る恐るタンスの中を見ると、動かないロボットが入っていた。スワニルダは悲鳴をあげそうになったが、グッと堪えてロボットを観察する。
ロボットはコッペリアによく似ていて、コッペリアがきていたようなフリフリの服を着ている。人工毛はまだ頭に貼り付けられておらず、頭に被せられているので、カツラみたいだ。スワニルダはそっとコッペリアを伺った。コッペリアは金髪、スワニルダは茶髪。でも青い瞳は同じ。背格好も似ている。
そう似ている。スワニルダとコッペリアは奇妙なほどに似ていた。
その時、ベランダに梯子をかけて、ある青年が現れた。
「やあコッペリア。君と話したくてきたんだ」
フランツである。何と間の悪い青年であろう。
フランツはコッペリアを見て、
「お人形さんみたいだね、コッペリア? 」
と話しかけた。
「我が娘が人形だと? 」
コッペリウスが二階に上がってきた。
「白昼堂々と侵入とは随分と舐めたマネをしてくれたものだな?え?間抜けのフランツめが」
間抜けとはまた不名誉極まりない二つ名だが、このような状況では致し方ない。フランツはすっかり動転してしどろもどろになった。
「ウェ!えええ、え。こ、こんにちは〜」
あ〜もう!なんでいきなり不法侵入なんてしようとするかなあ?自分のことは棚に上げて、スワニルダはため息を吐いた。私、フランツのそういうところだけはどうかと思うよ。まあ好きなんだけど。
コッペリウスはというと
「お茶でもどうかね」
とフランツに何やら怪しい液体を差し出している。コッペリウスは本来、人間嫌いな男であるのだが、何故か今日フランツに対して比較的友好的なのだった。
「あ、ありがとうございます! 」
いや飲むなよ!絶対怪しいでしょ!たまらずスワニルダは部屋から飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます