エピソード31:総括。地球上の茶飯の人生すべてに乾杯!。

私は目隠しをされ、手首をしばられ、果てしなくユラユラ揺られる。

静かだ。

とにかく車はグングン走っている。

私は打つ手がない。

ゴオゴオー、ゴオゴオー、ひたすら高級車の走る重い荘厳そうごんな音。

やがて対向車も並行車もなくなる。

都会を出たようだ。まぶたの裏が暗い。それは目隠ししていても分かる。

いったいどこへ行くのか?。

知るよしもない。

ただ、死人のように重心がなくなりグニャリと揺られるだけ。

一時間ぐらい経っただろうか。初めに話しかけたのは運転手の方だ。

「オネエさん。パパ活女にデイトナは似合わねえなあ、ケケケ。時計に困ってるなら俺がG‐SHOCK買ってやるぜ」

相手にしない。こんなチンピラ。

それにもう遅い。

チンピラはペラペラ続けやがる。

「アンタ、そっちの業界では有名らしいな。スゲエ美人だって。その顔で何人の男から金ぶんだくったんだろうな?。今度は下の口でデイトナ巻き上げるつもりだったのか?、ケケケ」

うるせえなあ。

小っちゃい奴ほどよく吠える。

「ホントいい顔だぜ。その顔で新宿のあのボロアパートだもんな。笑いが止まらねえな。あのボロアパートで卵かけごはん食ってるのかと思うと、切なくて、その身体からだ、俺が食っちまってやりてえよ」

デッカイため息がれた。

ああ……、ねぐらまで突き止められてるのか……。こりゃ、ホントに終わったな……。

「デイトナ欲しいか?。もう、ムリだぜ。なあ、宝くじの当て方、教えてやろうか?。初めは小さな100円のスクラッチから始めるんだとよ。それを当てて、どんどん山をデカくしていって、徐々に運を手繰たぐり寄せて、そして最後に自然と7億にたどり着くんだと。アンタ、いきなり7億つかもうとしちまったな。宝くじじゃなくばちが当たったのさ。カカカカカカカーッ!」

車内中になぐり響き渡る。

なんて下品な笑い声だ!。

ヘドが出るッ!。

「喋らねえな、オネエさん。どうした?。お前らパパ活女は、喋って男喜ばして金巻き上げるんじゃないのか?、ええ?、この乞食」

カッときた!。

思わず言葉が漏れてしまう。

「…るっせえなあッ、黙れチンピラ」

「チンピラはお前だ」

悟りに近い低い声。

横にいた息子がやっと口を開いた。

「おい、ずいぶんご無沙汰したな。ご無沙汰してるあいだに、アンタ、とんでもねえゲスいことしてくれたな。悪いけど、親父に全部き出させたよ」

やっぱりな。

「私をけてたの?」

「全部な。あまりにも話が出来すぎてるからな。親父とアンタを最初から最後まで尾行させた。無駄に遊び歩いてるんじゃないんだよ、こっちは。そんなこと頼む人間なんて腐るほど知ってるよ、人脈だよ、人脈」

「お父さん、どうなったの?」

「アンタとのこと、全部、ぶちまけたからな。今ごろ、オフクロと離婚協議中だよ。一家離散。おかげで俺も会社を放り出されて、今は、こんな連中とつるむようになっちまったよ。俺もアンタと一緒、乞食だよ」

私は精一杯の声を振りしぼる。

「何とかならないの……?」

「気の毒だが」

ドスの効いた低い声。

息子はそれから黙った。

ゴーッと車はどんどん前へ前へ進んでいく。

もう、信号も無い。

上へ登っていくようだ。

ひたいを突かれるように重力を感じるので分かる。

そしてクネクネ揺れる。

どうやら山の中らしいな。

もう、人もいないだろう。

私は一応最後の賭けに出る。

一応ね。

勝負はついている。

覚悟も出来ている。

しかし、たまを残して降参するのは、馬鹿らしくも何だかもったいない。

乞食らしく私は最後の弾で取引をする。

「結婚でチャラにするってのは考えられないの?」

「ムリだな」

「好きなだけレイプするってのは?」

「断る」

「何言ってもダメみたいね」

「何をやっても俺の腹の虫はおさまらんよ。お前は最低だ。人をコケにしやがって。2度殺しても殺し足りん。とことんたたってやる」

あっけなく弾は切れた。

やはり負けだ……。

日々思っている通り、やはりロクでもない死に方である。

殺しか……。

茶飯乞食ちゃめしこじきの最期に相応ふさわしい。

こんなもんだよ。

23年……。

つまらない人生だったな。

しかし、もう、この辺で終わっていいと思う。

どうせこの先もロクなことはないだろう。

生きるって辛いッ。

シノギを得るってのは果てしなくしんどい。

エンドレスマラソンをしているようなもんだ。

私は、もう、疲れたよ。

ここで終わらせてもらう。

むしろ、早く死ねて幸福だったのかもな。

どうせ、くだらない未来しかない。

これでよかったよ。

とっとと始末しちまおう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る