エピソード28:この国、信用しなきゃならないんなら、国民やめる。

自宅に帰って、腹が落ち着いたら冷静になれた。

愛人ねえ……。

考えるとは言ったものの、思案するまでもない。愛人やるしかねえだろ。

就労なんて絶対しねえ。

組織になんか死んでも入りたくねえ。

会社人間となんか一生かかわりたくねえ。

そして、国から絶対税金搾取さくしゅされたくねえ。

これが一番。

私は根本的に国を信用していない。

だから愛人するしかねえよ。

パンデミックには勝てない。国には頼らない。

だから自衛するしかねえよ。

クソウ……くやしいな……。

とりあえず確実にデイトナを手にしてチャンスを待つしかあるまい。

次のわなを考えるしかないだろう。

ハニートラップ的なものかなあ……、古い言葉で美人局つつもたせ的な……。

とりあえず、このマヌケなウイルスで死ぬわけにはいかない。

これじゃあ出来の悪いコメディーだよ。

私は茶飯乞食ちゃめしこじきだ。食い扶持ぶちが無ければ餓死だ。

今は苦いメシを食う。そして機会を待つ。

ワクチンと治療薬が開発されたら何とでもなる。ここは開き直ろう。

私は、愛人になることを「自らの意思で積極的に」決めたのだ。

「勇気ある妥協」ととらえるのだ。負けじゃない。

よしッ、決めたッ。

開き直る。

もう、しょうがないこれは。

最悪の危険を回避することは責任ある行動だ。

私はスマホを握り、父親に、愛人になることを正式に了承するむねをラインする。

そしてここが重要。

「新しい部屋を借りる前に、デイトナを渡すことが条件。これが飲めなければこの話は無い」

銘打めいうった。

必死の攻撃。

すると、すぐに返信が来た。

一週間後に六本木のホテルのラウンジで落ち合うとのこと。その時にデイトナを渡すと言う。

ついに我が手に……。

いよいよ〝これが手に入るならすべてを捨ててでもいい〟とさえ思ったデイトナが、

ついに私のモノになる。

「愛人」という苦渋の妥結案を飲んだが、とりあえず自分の手中に収まる。

一旦ホッとした。

一応は満足だ。

こんなご時勢だしな……。仕方あるまい……。

気持ちの整理がついたところで携帯が鳴る。

A子からラインだ。

「特別養護老人ホームに就職した。月、手取り、14万。頑張ります」

馬鹿め……。

こんな感染爆発の時期になにも医療福祉関係になんて……。

馬鹿げてる……。

狂ってるとしか言いようがない。

自ら戦場に飛び込むのか?。

私はそんな立派な人間性はないね。

愛人で食っていくよ。

こいつとは本当にこれで最後になるだろう。もう二度と会うこともない。

あばよ。A子。

最後にこの言葉を贈る。

FUCK!。

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