第6章 新型コロナウィルスとパパ活についての2・3の事情

エピソード26:第三次世界大戦って、これのこと?

2020年1月、世界中がパンデミックという言葉であふれかえった。

日本も例外ではない。

テレビ・新聞、ネット、あらゆるメディアが、そして世の中の人という人が、「パンデミックパンデミック」と立てている。

みんな、初め、「そんなバカな……」と他人事ひとごとのように笑っていたが、1月16日に国内初の感染者が出たことと、春節で日本に爆買い旅行に来る中国人を入国拒否しないことを政府が発表して、たちまち国中がウイルスを現実的で身近な恐怖として強く感じるようになった。

それからが早かった。

2月には見る見るうちに感染者が増加して、あっという間に街中からマスクが売り切れ、トイレットペーパーの買い占め騒動が起き、3月にはオリンピック延期と大物芸能人の相次ぐ死、そしてついには4月7日、緊急事態宣言が発出されて、日本は完全に感染列島に陥った。

濃厚接触……、

3密……、

外出自粛……、

ソーシャルディスタンス……、

ロックダウン。

だめだ……ッ!!。失業だ……ッ!!。

まったく予約が入らない。

私はそれとなく常連にラインを入れてみた。

それとなくであるそれとなく。

足元を見られたくない。

「調子はどう?」などという、上から目線の軽い余裕のノリ。

しかし、反応ゼロ。ガン無視。れなく全員にシカトされた。

そりゃそうだろう。それどころじゃあるまい。

自分が失業するかもしれないのに、自分の会社が倒産するかもしれないのに、パパ活なんてドブに金てる遊びなんてやってる余裕はない。

それは理解できる。

しかしッ、しかしであるッ。

こんなバカな!。

話が違う。計画が全部崩れた。

こんなはずじゃなかった。

どうするんだよ、これ?。

足洗ったA子が正しかったのか?。

ちがうッ。今だけだ。

人間は、3大欲望、食欲・性欲・睡眠欲には勝てない。

だからまたみんな女を欲しがるはずだ。絶対戻ってくる。

じゃあ、いつ?。

国は早く緊急事態解除しろよ!。

これじゃ、飢え死にだよ。

飲食・観光・アパレル、バタバタと会社が倒産していく。

街中がどんどん失業者であふれる。

生き残った正社員だって絶対安泰あんたいじゃない。

自宅待機でどんどん給料が減っていく。

私の貯金も湯水のように減っていく。

年初80万あった残高が5月、もう40万を切ろうとしている。

どんどん通帳の残高が容赦なく減っていくのが怖い。

このままじゃ間違いなく、遠くないうちに破滅する。

餓死がしの恐怖……。

独り部屋に閉じこもっていると気が狂いそうになる。

だからと言って外には出られない。

別に出ても捕まるわけではないんだけども、でも、出ても誰もいない。

みんな巣ごもりしている。

指名が掛からない。

私に掛からない。

業界の需要が無いわけではない。

以前ほどではないが、一定数の需要はある。

じゃあ、なぜ、私に指名が掛からない?。なぜ私は呼ばれない?。

それはライバルが増えてるから。

パパ活の新規参入者がものすごい勢いで増えているのだ。

毎日チェックするツイッターで、そのえげつないハイペースの増加スピードに、オエオエとき気をもよおす。

みんな、考えることは一緒か……。

社会人としての「能力」を売れなくなったら、最後は自分の「女」を売るしかない。

下は中学生から上は50代の主婦まで、みんなこぞってパパ活を始めている。

ツイッターの売り込み文句を見ると、もはや、営業活動ではない。

必死の餓死回避活動だ。

「お小遣い要りません、食事だけでOKです!」の文字があらゆるSNS媒体ばいたいに飛びう。

私は何とか打開策はないかと、毎日SNSを取りかれたようにチェックする。

何かアイディアはないかとスマホの画面が割れるんじゃないかと思うぐらい監視する。

そうやって毎日SNSに明け暮れていると、ある文字がウジ虫のようにウジャウジャき出してきた。

大人おとなOK!。一本」

つまり、「1万円で本番あり」という意味。

とうとう風俗嬢・AⅤ嬢が参入してきた。

露骨に「元風俗嬢で~す!」とピーチクパーチクから騒ぎしている文字がパラパラ能天気にネットの海で躍る。

ダメだ!。勝てない!。

たった1万円で本番なんて、自粛疲れしている男たちにはよだれモノだよ。

茶飯ちゃめしのみの私なんてとても太刀打ちできない。

美人って世界一じゃねえのかよッ!?。

どういうことだよ?。

解かってるよ!。

高級美術品より一発の射精。これだよな……。

これには勝てない。

もう、こうなったら見栄なんて張ってられない。なりふり構わない。

私は必死で以前の客に自分を売り込む。ラインしまくる。

するとどいつもこいつも、ここぞとばかりに嘲笑あざわらってきやがる。

「へへ、ちたもんだな笑。大人一発なら買ってやってもいいぜ笑笑」

畜生、殺してやる!。

さんざん人の弱みに付け込んできた私が、今、集中攻撃で弱みに付け込まれている。

クソウッ!、涙が出る。

私は涙が出る……ッ!。

クソウッ!、悔しいッ!。

また負けた。

また世間からかすめ取られた。

世の男どもは、百万人に一人の美貌を眺める事より、百均ショップに転がっているような女のナニを選択した。

そういうことだ。

結論だ。

これが分かって私はついに一日二食にしょくにした。

戦中かよッ。

白メシに塩かけて食った。

屈辱。

恥ずかしい。

でも、背に腹は代えられない。

飢え死にしたら終わり。

しかし、腹は減る。

とことん減る。

目がチカチカして、髪の毛を思いっきり引っ張られるように頭がツーンと痛い。

まるで何かの中毒症状のようだ。

やはり人間はメシだ。

セックスしなくても生きていけるが、食わないと死ぬ。

苦しい……。

空腹で死にそうだ……。

いよいよカタギか、はたまた大人おとなか……。

片栗粉を入れたお湯に砂糖をまぶした液体を飲んで求人サイトを見ようとしているところで、偶然にしては出来すぎるタイミングで、デイトナの父親から連絡がきた。

「会って話がしたい」。

それだけ。

何だ?。こんな時に。薄気味悪い。

いや、そんなこと言ってる場合じゃないだろうッ。

まともな食い物が食えるかもしれない。

ここはわらをもつかむ思い。

とにかく行こう。私はせた重い腰を上げた。

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