エピソード19:裏の裏の裏、つまりはやはり裏をかく。

翌日、昼、父親からラインが来た。昨日と同じレストランに来いと言う。

さすが親子、趣味同じ。ザギンだよザギン。呆れる……。

まあ、息子が父親の受け売りをしているんだろう。

バカ親子が……。

父親は私と息子の関係を全部聞いているらしい。話は早い。

じゃあ、行くか、ザギン。

今度はバッチリメイク。もちろん朝風呂もね。

フル装備で私はまたまた昨日の銀座のレストランに向かう。


余裕をもって行くと、先に待っていたのは父親の方だった。

一時間も早い。熱心なことで。

その父親がいきなり切り込む。

「パパ活ですか?。貴方も大変ですねえ」

とニヤニヤ、スケベに笑う。

やっぱりこの父親は私にれている。

私は紙袋からごっついデイトナの箱を取り出してサッと父親の前に突き出す。

「お返しいたします」

私は淡々と言う。

父親はガッカリする。

「そう、あっさり返されてもねえ。貴方も、パパ活やってるんなら、これがどれほどの値打ちのある物か分かるでしょう。」

「ええ」

またまた私は淡々と答える。

「アンタ、これ、欲しくないの?」

「さあ」

「『さあ』って……」

父親は想定外の私の返答にますます困る。

私はそこに付け込む。

「息子さんに結婚をせまられて困ってます。息子さんに言ってください。私、時計なんて興味ないし、息子さんと結婚するつもりもありません。困ります。私、『要らない要らない』って言ってるのに強引に押し付けて……。『私、こんなモノもらわなくてもデートする』って言ってるのに、『僕の気持ちだから』って、その一点張りで……。私、もう、困ってます」

最後は泣きを入れた。

「それは苦労を掛けましたね。あいつには早く一人前になってもらいたくてね。でも、親の心子知らずで遊びほうけて。困ったもんです」

「大変ですよね?。後継ぎ」

「そう言ってもらえると救われます」

「お金には綺麗ですから、私は迷惑はしていないんですけど、でも、今回の件はどうしていいか……」

「そんなにあいつは貴方とデートしてたんですか?」

「私も調子に乗ったんです。パパ活女子、みんな貧乏だから」

「何かお金に困ったことでも?」

私は、日本語教師養成学校でNにだまされたことを論理的に完結に話した。

ここはあえて泣きは入れない。見え見えだからね。

すると父親は私のふところにグニャリと崩れ落ちる。

「アンタみたいな美人が金に困るなんてねえ……」

ついに美人と言ったな、オヤジ。

「私、学歴がないから。だから、なかなか仕事が見つからなくて……」

「貴方みたいな人をらないなんて、そりゃダメな企業ばかり面接に行っているんですよ」

「私、そんな美人ですか?」。

トボけて聞く。

「私が生きてきた中では間違いなく一番だね」

「ハア。ありがとうございます」

もう、落ちるな。

私は携帯の時刻を見やり、サッと話をしまう。

「じゃあ、これでいいですよね?。時計も返したし、そっちとはこれで終わりにしましょう。お世話になりました。失礼します」

私はズバッと席を立つ。

「ちょっと待って」

完全に落ちた。

「お詫びをしたい。今日は私がおもてなしをします。どうぞ座ってください。まあ、好きなものを食べてください。さあ、どうぞ、さあッ」

も~らったッ!。

あっけなく父親は落ちた。

このあと、私と父親は、映画を見て、ディナーをして、バー行って、カラオケやって、最後に5万円の小遣いと2万のタクシー代もらって、電話番号交換して別れた。

金持ってんなあ……、有る所には有るもんだ。

スルメでたい釣ったよ。

私は、父親の行為に甘えるようにタクシーにニコニコ乗り込む。

親父は喜んでニヤニヤ見送る。

とりあえず、デイトナは父親に返した。それでいい。

サイは振られた。ここから始まるんだ。

やっと本線に乗ったな。

帰宅して、シャワーでアルコールを抜いた私は、入念なスキンケアとストレッチをしてグッスリ寝た。

美肌には睡眠が命。

いよいよこれから本格的な戦いが始まる。寝よ寝よ。

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