第4章 ロレックスドッキリ!。祭りの準備は手間ひまかかるよ。

エピソード18:将を射んとせば先ず馬を射よ。馬、要らなくね?

2日後、さっそく息子から連絡が来た。

案外早かったな。どうせ親父にバレたんだろう。バカらし。

ラインを見やる。

「ヤバい。親父にバレた。時計返してほしい」。

やっぱりな。馬鹿め。

携帯を見ながら、今、ちゃぶ台の上にデイトナがある。

いい子だ。最高だぜ。今さら返せるかよ。

私が「結婚するんじゃなかったの?」

と、もてあそんで返事をすると、速攻、既読になって返ってくる。

「それも含めて相談したい。すぐ会ってくれ」。

焦ってるなあ。やっぱ単なるアホだな、コイツ。

腹減った。

バカ相手に何の実りも無いが、茶飯ついでに話を聞いてやるか。

「デートでいい?」

「お小遣いやるからとにかく会ってよ!」

「タクシー代も?」

「とにかく出て来てくれ」。

銀座のレストランで会うことにした。美味いメシになりそうだ。


先に着いた私がバジルソースのパスタをチュルチュル堪能していると、息子が、息をハアハアきらして、顔を青白くして、乾いたつばを飲み込みながら、いきなり私の斜め向かいの椅子にドカリと座った。

あーあッ……。真冬なのに大汗かいてるよ、この人。

「まずいよッまずいよッまずいってばッ!。ヤベーッて。親父にバレちゃったよ。俺、家、追い出されるよ。なあ、俺、野垂のたれ死んじゃうよ。どうするん?」

だめだこりゃ……。

ここまでアホだったのか……。

大丈夫か?、あの会社。

こいつが継いだらマジでつぶれるぞ。

世襲はつくづく罪作つみつくりな制度だな。こんな奴と結婚なんか死んでも出来ないぞ。

したら速攻倒産して路頭に迷う。ホントの乞食だぜまったく。アホか。

ちょっとイジメてやろ。

「なあッ、なあッ、どうすりゃいいんだよ?。会社、クビだよッ」

「あ、そう」

「俺と結婚するって言ってくれよッ、なッ、なッ」

「そんな、いきなりめ寄られたってねえ」

「そんなこと言うなよッ。これまで散々小遣いやったじゃないかよッ」

「私もデートしたでしょ」

「だから、結婚なんじゃないか」

「なに、それ?」

「君と俺はもういい仲じゃないか?」

「ご飯食べただけで?」

「え……?」

いかん、笑いがおさえられない。もう始末しよう。

「私、こんなことで結婚なんか絶対しないよ」

「ロレックス、欲しくないのか?」

「そこまでして欲しくないな」

「俺のこと嫌いか?」

「さあね。お金に綺麗だから嫌いじゃないよ」

「じゃあ、親父に事情を説明してくれよ」

「なんの事情を?」

「君が結婚するって言ったら、親父は許すよ」

「馬鹿じゃないの?」

「俺は君となら絶対結婚できる。絶対悪いようにはしない」

「結婚ねえ……」

「ロレックスは絶対渡す。だから結婚のことを親父に……」

いよいよ泣きそうになってるな、気の毒に。ホントのホントのマヌケだ。

こりゃ、親父をたぶらかした方がいいな。

「将を射んとせば……」とは言うが、ここは本丸にぶつかった方が早いだろう。

ダイレクトに親父を落とそう。

「とりあえず、お父さんと話すよ。時計は勝手にったんじゃないって私から言ってあげるよ」

「ホントか?」

「お父さんと段取り着けて」

「結婚はッ?」

「それも含めて話してみるよ」

「君が結婚するって言えば、親父は必ず許すからッ、なッ」

「まあ、話してみるよ」

うっとうしいから小遣いももらわずメシ代だけ出させて早々とこの厄介者を片付けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る