エピソード11:情弱だからカモられるんじゃない、カモられたから情弱なんだ。

失恋の傷も癒えた一年後の二十歳はたち。転機が訪れる。

一刻も早く父の元を離れたかった私は、父目当てで来る一人のオバサンが日本語教師であることを知る。

話を深く聞いていくうち、外国人相手に働くという点に強い興味を持った。

小学校高学年あたりから、日本人独特のドメスティックな人間関係になじめなかった私は、いつかフリーで外国人に接してみたいという欲求が芽生めばえていた。

それは、暴走族での「何をするにもみんな一緒で」という粘着質な人間関係を経て決定的なものとなった。

私はさっそくネットで調べて、国内大手の日本語教師養成学校「Hスクール」を訪ねてみた。それが、2016年の秋。

そのとき対応したのが事務員のチャラ男N。

このNがのちの私の人生観を決定づけることになる。

申し込み手続きで、Nと私は終始うさん臭いやり取りをした。

Nはとっとと早く私を入学させて自分の営業成績を上げたい。私は費用と日程について詳しく聞きたい。

かみ合わない。

国内最大手のHスクールは、ホスピタリティは申し分ないが、授業料が高いので有名だ。

そりゃそうだ、都内のこんな一等地の立派なビルのワンフロアを貸し切っている。

家賃だけでも大変だ。

黒字にもっていこうとすれば授業料を上げるしかない。

そんなことは、この無知むち定時制卒の私にでも分かる。

Nのチャラい説明によれば、授業料はテキスト代含め、込み込みで約70万円。

標準履修期間は9ヶ月。

この間に420単位時間以上の研修科目を履修すれば、無事、日本語教師の資格が得られるというもの。

20歳の定時制卒の私には、70万はデカい。

本当にこれで日本語教師になれるのか?、と私はNに何度も聞いた。

Nは「なれますなれます!」と軽薄な笑顔で何度もオウムのように返答する。

どうしても心理的にかみ合わない。

だから、Hスクールについて随分ネットで調べた。

しかし、だいたい、オールジャンルすべての資格取得学校というものが胡散臭うさんくさい。

そのなかでもHスクールはまだマシな方だ。

特に日本語教師業界では東大のようなポジションを得ている。

教室や休憩所やトイレも、ホテルのような至れり尽くせりの造りだ。

間違いはないと思い、私は、昼間は父の陶器店で授業料を稼ぎ、夜間で9ヶ月通うことに決め、チャラ男が持ってきた契約書に必要事項を記入し、サインして、父から前借りした70万円を振り込んだ。これが2016年、年末。

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