エピソード12:詐欺。虫ケラの抵抗。

さっそく年明け2017年1月から授業は始まった。

この資格取得にすべてを賭けていた若干二十歳はたちの世間知らずの私は、生まれて初めて勉強というものを真面目にやった。

授業は順調に進んだ。というより私が置いて行かれないように食らいついた。

その必死さもあって私はスクール内では上位の成績を修めていた。

日本語教師業界は圧倒的に元学校教師が多い。

小学校・中学校・高校の教師。

それもリタイアした爺さん婆さん先生ばかり。

デイサービスか、ここは。

あと人間関係に疲れて転職を目指す現役の教師もいて、とにかく元教師だらけ。

その中で私が思ったことは、こんなに学校の教師ってバカだったのか、ということ。

定時制卒の私より破壊的にバカだ。教案が無ければ何もできない無能ばかり。

スクールの実習では、自分で独自の教案を作らなければならないのだが、これが、何を伝えたい授業だか、皆目かいもくわからない教案ばかり。

大学で教員免許取ったというだけで、学校の教師というのがいかに低脳なのかということをまざまざと見せつけられたし、子供時代こんな奴らに毎日叱られていたのかと思うと腹が立ったし、私自身、初めて社会の矛盾というものを知った。

そんなマヌケ講義を楽勝でこなしていた私に事件が起きた。

2017年7月、日本政府により、

「2017年8月より、日本語教師は4年生大学を卒業した者でなければなれない」

という法改正がなされた。

ちょっと待てよバカヤロウッ!。

正確には、法務省が定める日本語学校では働けないというもの。

だから、高卒でも420時間の履修をすれば、資格は与えるが、あくまでも働く場所は私塾やボランティアやフリーランスに限るというもの。

そんなの関係あるかッ!。

そんなの、実質、高卒は国内の日本語学校に就職できないって言ってるようなもんじゃないか。

冗談じゃない!。

私は当然この法律について徹底的に調べた。

すると、実はこの法律、去年の8月に『方針』は上がっていたらしいのだ。

去年の8月なら、私がバカチャラ男のNに入学の説明を受けるはるか前。

冗談じゃねえ。詐欺だ!。

私はNに話があると掛け合った。

しかし、事務のお偉方えらがたが対応し、Nは逃げた。

このHスクールの説明義務違反に泣かされた高卒受講生は私のほかにも結構いた。

短大生もこれに該当するからかなり悪質な詐欺だ。

騙された!。

私は学校側に説明を求めた。

Hスクールとしては、

「去年の8月の時点では『方針』であって、正式な『法改正』ではなかった、だから説明の義務はない」

という。

しかし、契約に学歴を書く欄があるから、去年の契約時に

「来年の8月から高卒・短大の人は就職できないかもしれない」

と説明すべきだったと私はかなり強く抗議した。

しかし

「確定でないものをいたずらに吹聴ふいちょうできない」

と学校側は突っぱねる。

それに、「日本語能力検定試験」に合格すれば、4大卒でなくても就職はできる、ととどめを刺した。

やっぱりこれできたか……。

私は負けを認めざるを得ない……。

確かに、4大卒業してなくても、420時間履修して、日本語能力検定試験に合格すれば、法務省の定める国内の日本語学校で働ける資格は取れる。

しかし、この、日本語能力検定試験……恐ろしく難しい……。

とても太刀打ちできない。

詳しくは省くが、この試験は、構造上、問題の傾向と対策が極めて練りづらく、多くの人が、その解答の曖昧さに疲弊して、毎年挫折し、そして辞めていく。

合格率も当然ながら低い。

それほど厄介で難解な試験……。

私には無理だ。

「あのときNが法改正の説明をしていたら私は入学していなかった」

と食い下がったが、

「では、法廷で争いましょう」

とHスクールは言い切った。

勝てない。はかられた……。

裁判する金なんてない。

それに声高に「私は定時制卒だ!」というのも恥っさらしのオンパレードだ。

みっともなくて廊下を歩けない。

みんな黙っているのはそのせいか……?。

たぶん、泣き寝入りしている高卒・短大卒はたくさんいるんだろうな。

分からない……。

「じゃあ、ここ(学歴欄)、適当にチャチャッと書いといてくださいネッ」

あのNのチャラチャラ七色に光る契約の時の胡散臭うさんくさい顔が忘れられない。

メチャクチャ悔しい!。

70万ぼったくられた。

たぶん、法改正について説明しなかったのはHスクールの会社の営業方針だったんじゃないかと今では冷静に思っている。

あれを説明していたら、高卒と短大のカモが釣れなくなる。

負けた。

Nという男……、殺したい。殺意がみなぎる。

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