第9話
「店長、今日休みだって」
菜央がそう言った。
俺は昨日のことがあったから納得した。
「そっか」
「店長って、いつも店に居てウザいって気持ちもあったけど、居ないと心細いね」
「そうだね」
ウザいと思ってたんだ、菜央は。可哀想な店長。
今日はゆっくり休んで、また調子を整えてくれれば良いんだけど。
「あれ? 店の外に黒い猫ちゃんがいる」
菜央の言葉に俺は反応した。
「え!?」
クロが居た。
「にゃーん」
「なんか、呼んでるみたい」
菜央は外へ出ようとした。
「行かない方が良いんじゃない?何の病気持ってるか分からないし」
「猫ちゃーん、おいで」
俺の言葉を聞かず、菜央は猫の所へ行った。
俺は、菜央の足にまとわりついてゴロゴロ言っているクロを冷たい目で見た。
「今日は、千草は昼までなんだよね? シフト」
「うん」
俺は時計を見た。11時55分。
そろそろ次のシフトの人が来てもおかしくない時間だ。
「じゃ、おつかれ、千草」
「お先に、菜央」
俺は時間になって、次のシフトの人と変わるとコンビニを後にした。
「クロ、なんでお前コンビニに来たんだよ」
「だって、暇だったんだもん」
「遊び場じゃねえんだから、あんまり来るなよ」
俺はクロにそう言ったが、クロは何処吹く風と言った様子であくびをしていた。
俺は家に帰ると、コンビニでもらった消費期限切れの弁当を開け、クロの食事を出した。
「カリカリ、けっこういけるね」
クロは満足そうだ。
「俺の飯より高いんじゃねえか?」
そう言って、俺はノンアルビールを開けて飲んだ。
「僕も水飲みたいな」
「ほらよ」
俺は適当な食器に水を入れてクロに渡した。
クロは器用に水をぺちゃぺちゃ飲んでいる。
「なあ、魔法少女って何をすれば良いんだ?」
「この前も言ったけど、人助けだよ」
「それさ、なんか目印みたいなのあるのか?」
「うーん。難しいね」
クロも首をひねっていた。
「魔法少女って言っても、出来ることは少ないぜ?」
「そうかな? 死に神のナナにはもう会った?」
「ああ、二回ほど。百々花っていう魔法少女に助けられた」
「そうか、百々花にも会ってるんだ」
クロはそう言うと目を細めた。
「さて、ご飯も終わったし、パトロールに行くよ」
「はいはい、分かったよ」
俺はクロの後について、その辺を歩くことにした。
昼間の町はたまに老人やおばさんとすれ違う位で、人通りが少なかった。
「あ、あれ、困ってるんじゃない?」
「え?」
クロの鼻が指す方を見ると、女子中学生が20代くらいの男性に絡まれていた。
「あの、失礼します」
「なんだ、君は?」
「あ、助けて下さい!」
女子中学生が俺の後ろに隠れた。
「お兄さん、不審者?」
「ああ!?」
男は声を荒げた。
俺は変身せずに、叫んだ。
「おまわりさん! 変な人が居ます!! 助けて下さい!」
「ちっ」
男は声を上げられて、逃げ出した。
「もう、大丈夫だと思うけど、家まで送ろうか?」
「えっと、ありがとうございます」
女子中学生は俺にお礼を言うと、歩き出した。
「これも人助けか?」
クロに聞いたが、クロは返事をしなかった。
「交番に届けを出そうと思います」
女子中学生がそう言ったので、俺は慌てた。
身分が証明できるものがない。
「じゃ、交番のそばまで送るよ」
俺は交番のそばまで女子中学生を送ると、また、クロの後について歩き出した。
「人の居るところで話しかけられても、返事できるわけ無いじゃない」
「ああ、そうだな、悪い」
クロは鼻をふんっと鳴らすと、またまっすぐ歩き出した。
例の歩道橋の上に来た。
クロはふんふんと辺りの匂いを嗅いだ。
「まだ、ナナはこの辺に来てるようだね」
「匂いがするのか?」
「うん」
俺は歩道橋から、ぼんやりと遠くを眺めた。
ここで、二人の人間が命を絶とうとしていた。
なんだか、やるせなかった。
「今日は、特に変化はなさそうだね」
クロはそう言うと、家の方向へ向かって歩き出した。
「じゃあ、帰るか」
俺もクロの後について、家に帰ることにした。
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