第10話

「ねえ、君可愛いね。アイドル目指してみない?」

「は!? 俺……じゃなくて、私ですか?」

俺は道を歩いていたら、スカウトされた。


なんだか怪しいと思ったが、スカウトを受けるのは初めてなので興味がわいた。

「私、アイドルにスカウトされてるんですか?」

俺がそう聞くと、ちょっとうさんくさい男は、頷いた。

「そうそう、君みたいに清楚な感じの子って今人気なんだよね」


「え、AVとか言いませんよね?」

俺がそう聞くと、男は目をそらした。

図星だったか?


「私、興味ありませんから」

「まあ、そう言わずに名刺だけでも受け取ってよ」

そう言うと男は半ば強引に名刺を俺に渡した。

名刺には、<グランド企画 岩井仁(いわい ひとし)>と書かれていた。


俺は仕方なく名刺を受け取った。


バイトに行くと、菜央がギリギリでやって来た。

「ねえ、聞いて千草! 私アイドルにスカウトされちゃった!」

菜央は嬉しそうに名刺を握りしめている。

俺は嫌な予感がして、名刺を見せてもらった。

名刺には、<グランド企画 岩井仁(いわい ひとし)>と書かれている。


やっぱり。

俺は菜央に言った。

「それ、私ももらった。ほら」

俺が名刺を見せると、菜央は目を輝かせた。


「ヤバい! 二人そろってアイドルデビュー?」

菜央は完全に浮かれている。

俺は冷静に行った。

「たぶんAVのスカウトだよ」

「えー!!」


菜央は口を尖らせて抗議したが、俺は岩井という男が信用できなかった。

それでも、いくら説得しようとしても菜央は納得しなかった。


「じゃあさ、二人で話聞きに行く?」

俺は現実を見させるため、菜央に提案した。

「うん!」

菜央は二つ返事で引き受けた。


そして翌日、岩井の名刺に書かれた電話番号に電話をかけた。

すると、すぐに来て欲しいと言われた。


「菜央は危なっかしい所、有るからなあ」

「千草だって浮世離れしたところ有るよ」

話しながら言われた住所に行くと、よくある郊外向けの喫茶店があった。


「あ、いるよ、岩井さん」

「行ってみよう」

菜央と俺は岩井の居る席に行った。

「こんにちは、岩井さん」

「ああ、良く来てくれたね」

岩井は笑顔で菜央に挨拶をした。


「こんにちは」

「君も一緒か」

ちょっと岩井の顔が曇った。


「二人は友達なの?」

「えっと、バイト仲間です」

俺が言葉を選んでいると、菜央が言葉をかぶせた。

「友達です!」


俺はちょっと嬉しくて俯いた。

「そっか、そうだったんだね」

岩井は優しい笑顔で頷いた。

俺はだまされないぞ、と思った。


「二人にはアイドル見習いとして、レッスンを受けてテレビに出てもらいたいと思って」

岩井の言葉に俺は身構えた。

これはアイドル詐欺の常套句だ。

「えっと、でも一人だと怖いかな」

「私はお断りします。帰ろう、菜央」


「え、今決めないとチャンス逃しちゃうよ?」

岩井の言葉に菜央が頷いた。

菜央はすっかり岩井のことを信じている。

俺はスマホを取り出し、<グランド企画 岩井>と検索した。


すると、検索結果は悲惨なものだった。

法外なレッスン料の請求やら、AVまがいのセクシー動画撮影会だとか。

俺は検索結果を菜央に見せた。

菜央の顔が青ざめた。


「あの、やっぱり私も帰ります」

「え、今更!?」

岩井の本性が少し見えた。

菜央の腕を掴んだのだ。


「離せよ、岩井!」

俺がすごむと、岩井はひるんだ。

「もう、正体はバレてるんだよ!?」

そう言って俺はスマホの検索結果を岩井の前に突きつけた。


「あ!」

岩井は大人しく席についた。

「警察に行くか?」

俺がそういうと、岩井は慌てて席を立った。

「もう、君たちは良いから。さよなら」

岩井は駆けるようにして店から逃げ出した。


「あぶなかったね、菜央」

「うん、ありがとう千草」

その後、世間話をしてから菜央と俺は店を出て別れた。


「きゃあ!」

別れた瞬間、菜央が岩井に捕まっていた。

「悪いようにはしないからさ」


「ちょっと、いい加減にしなさいよ!」

俺は魔法を使って、岩井を吹き飛ばした。

「なんだ!? 今のは!?」

岩井は菜央から離れて、転がって居た。


「今のうちに逃げよう! 菜央!」

「うん!」

俺達は、バイト先のコンビニ近くの交番まで走って逃げた。


「おまわりさん、不審者に追われてます!」

「大丈夫かい!?」

「これ、不審者の名刺です」

「この辺で最近、スカウト詐欺がはやってるんだ。情報ありがとう」


岩井が追ってくる様子はなかった。

俺は菜央に言った。

「だからさ、うまい話は転がってないんだよ」

「ううん、悔しいなあ」

菜央は涙を浮かべていた。


「まあ、元気出して」

「うん」


やっぱり世間は物騒だ。

俺は魔法少女として、悪に染まった輩を倒さなければいけないと決意を新たにした。

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