卒業パーティーで婚約破棄する奴って本当にいるんだ!

砂月ちゃん

卒業パーティーで婚約破棄する奴って本当にいるんだ!

卒業パーティーの最中、生徒会長の私は少しの間サボる(休憩する)為に、会場の隅にある穴場スポットである階段の物影に居た。



今期一番の高位貴族、侯爵家の末弟で未だ婚約者も居ない私に対する令嬢達のアピールが凄い。



それに生徒会副会長を務める親友から、生徒会に入ったばかりの頃『パーティーで婚約破棄する者が出たら、一緒に騎士団に入る』という賭けを酔った勢いでしてしまい、証文まで書いてしまった。



それ以来、副会長だけでなく他の騎士志望の奴らも、しつこく一緒に騎士団に入ろうと誘って来る。



特に今日は酒が入っているから、皆んなの相手をするのが面倒だ。



しかしここまで来れば、《パーティーで婚約破棄をする馬鹿》の心配はないだろう。

後少しでパーティーもお開きだし。



兄達から聞いていたが、本当にここはサボる(休憩する)のには最適だな……



ところが直ぐに、その平穏は破られる事になった。

私の隠れて居る場所の直ぐ目の前で、とんでもない事が起こったのだ。



「ミシェル・F・エリンギス!

お前との婚約を破棄する!!

身分を傘に着て、私の愛するアンを虐めたそうだな?

嫉妬で彼女を虐めるなんて、そんな女は未来の男爵夫人として相応しくない!」



婚約者が居るのに、浮気相手の娘の肩を愛おしそうに抱きながら、私の愛すると宣い。

浮気してました。と堂々と宣言してる。良いのかそれで?この男……



「アンが同じ部屋に居ても、令嬢達は皆んな無視していたそうじゃないか!

君の差金だろう!!」



それが本当なら酷いな……

堂々と浮気を宣言する男爵家の息子と連んでる、君の頭の中身も酷いけど。



「しかも毎日彼女に汚れた服を洗わせたり、部屋の掃除をさせていたそうじゃないか!

可愛いそうに手が荒れていたんだぞ!!」



いや…ここから見ても、手が荒れてる様には見えないんだが………



卒業パーティー会場の隅の方にある階段で行われていたのは…テンプレの『卒業パーティーで婚約破棄』だった。



騒ぎを起こしているのはピンクのドレスを着た、金髪の少女と三人の男子生徒。

そのドレス、サイズが合って無い様だが、もしかして本当は婚約者に渡す筈だった物じゃないのか?



婚約者に渡す筈の、卒業パーティー用のドレスを着せ、アクセサリーを付けた浮気相手とパーティーに出席とか、親に知られたら大変な事になると思うが大丈夫なのか?



まぁ本来の婚約者に、ピンクは似合わないと思うが……



対するはモスグリーンの落ち着いたドレスを着た女生徒。

生徒会で書記を務めていた男爵令嬢ミシェル嬢だ。



モスグリーンのドレスは彼女に凄く似合っている。



婚約破棄を告げているのは確か、そのミシェル嬢の婚約者じゃなかったか?

彼も身分は男爵家だったよな……



彼の右側に居るのは王城で文官をしている準男爵の息子で、卒業後は親のコネで王城に文官として就職が決まっていたはず。



そして左側に居るのは確か騎士爵家の五男だったかな?

卒業後は継ぐ爵位もないので、冒険者になると聞いている。



そんなしょぼい三人が明らかに平民の娘を囲って、男爵令嬢のミシェル嬢に『卒業パーティーで婚約破棄』を告げている。


… 。


… 。



えーーーーー!

嘘だろ?今年は高位貴族家の方は、そんな兆候が無かったから、安心してたのにそう来るか!?



それにしてもしょぼい《卒業パーティー婚約破棄劇》だな……



男爵と準男爵と騎士爵の息子で逆ハーレムか?

三人に囲われてるお花畑ヒロインは学園の生徒じゃ無さそうだし、悪役令嬢?も男爵令嬢だから、間違っても彼らが言っている状況にはならないと思うんだがなぁ~。



言っちゃ悪いが男爵令嬢が何か言ったところで、せいぜい彼女の友人数名が同調するのが関の山だと思うがな。



「婚約破棄ですか?それは今ここで言う事でしょうか?

それに私、彼女を虐めてなんていませんわ!」



毅然とした声で否定するミシェル嬢。



「そんな!酷いです!!いつもわたしに…うぅっヒック……… 」



ここでハッキリ言わずに、男子生徒達の誤解を招く作戦か!?



「お前の所為でアンは学園に居られなくなったんだぞ!アンに謝れ!!」


「何故私がその人に謝らなければなりませんの?

私は謝らなければならない様な事は、いっさいしておりません!」



ミシェル嬢も呆れ顔で反論している。

当然だろう、彼女が婚約者の事をなんとも思ってなく、ただの政略だと考えているのは有名な話しだ。



入学以来放置されていれば、当然の結果だ。

しだいにこの騒ぎに気づいた周りの生徒達も集まりだし、彼らの言葉に皆困惑している様子。



この場所から出るなら、今がチャンス!

ある程度人数が集まって来たところで、さも『今来ました。』という様な顔をしてさり気なく集団に混じる。




「あの様な方、学園にいらっしゃったかしら?」


「うちの生徒じゃないよな?」


「わたくし、見た事がありますわよ。

従妹の子爵令嬢がいる女子寮で…… 。」


「誰かあの者の事を、詳しく知っている者は?」



と今期の女子生徒で一番身分の高い伯爵令嬢が、周りに居た友人達に声を掛けると、直ぐにその女子寮に住んでいる下級貴族の令嬢が数人集められた。



そしてお花畑ヒロインの正体が、あっさり判明した。



「あの者はこの学園の生徒では無く、私達下級貴族の女子寮で下働きをしていた者ですわ。」


「確か最初はミシェルさんの部屋付近の担当でしたわね。

でも手を抜いたり仕事をサボったりして、下働き見習いに降格されたのです。」


「あら、わたくし今期限りでクビだと寮母さんから伺いましたわよ。

あまりにも勤務態度が酷すぎるからって…… 。」



おいおい…テンプレの平民上がりの下級貴族令嬢でも平民の特待生でもなく、ただの女子寮の下働き見習いかよ。



「そ…そんな馬鹿な!?

アンはいつも虐められて、学園の裏庭の隅で泣いていたんだぞ!」


「アンとは昼休憩や放課後にも会っていたんだ!」


「ちゃんと制服だって着ていた!

虐められていた証拠に、制服はいつも汚れていたんだぞ!

それなのに、アンを偽生徒扱いするなんて酷いじゃないか!!」



下級貴族用の女子寮から、学園の裏庭までってけっこう距離あるだろ!

(学園は広いので、片道およそ1・5km)

しかも制服がいつも汚れていたって?

それ生徒の洗濯物だから汚れてたんじゃないのか?



そりゃそんだけの時間サボってたら、仕事クビになるだろうよ。

自分の所為じゃないか!



会場の隅で行われていたしょぼい婚約破棄劇はいつの間にか、会場全体を巻き込む騒ぎになっていた。



誰が呼びに行ったのか、下級貴族女子寮の寮母が呼ばれ、お花畑ヒロインが本当にただの下働見習いだと証言している。



あぁ…婚約破棄した男爵令息達やらかしたな……

たぶんこれで、決まっていた就職先も駄目だろう。



私の代では《パーティーで婚約破棄》を起こさせない様に頑張ったのに、これまでの苦労が水の泡じゃないか……



アッ!しまった!!見ている分には面白すぎて、すっかり賭けの事を忘れてた。



「あぁっ!もう生徒会長ってば何処に居たんですか?

探したんですよ~♪」



酔っぱらっている生徒会副会長は、随分と嬉しそうだ。



「これで賭けは私の勝ちですね♪

約束通り文官は諦めて、一緒に騎士団に入りましょう!」



おい、まさかお前…この事知ってたんじゃないだろうな?

私が疑いの目を向けると、悪びれもせずに……



「そんな訳ないじゃ無いですか♪

偶然ですって♪♪」



怪しい……




後にこの《卒業パーティー婚約破棄》は《国立学園始まって以来のしょぼい婚約破棄劇》として生徒達の間に、伝説として語り継がれていく事になる。



その後、ミシェル嬢と婚約者は当然ながら婚約破棄。

準男爵家の息子共々、就職先もダメになり、廃嫡された。

今は騎士爵家の五男と一緒に、冒険者をしているらしい。



ミシェル嬢はというと婚約破棄後、ちゃっかり幼馴染みの騎士爵家の嫡男のところに嫁いで行った。



また件のお花畑ヒロインのアンは、《身分詐称》《侮辱罪》《窃盗》等で逮捕され、鉱山送りになった。



で私はというと…来年度から国立学園に入学される殿下に専属護衛騎士として、また学園の卒業生として、注意するべき事を話している内に、何故か黒歴史とも言うべきあの話しをするハメになっていた。



もちろん実際の名前は言ってない…全て仮名だ。



「何それウケるww」



この話しに殿下は大喜び。

ご自分が生徒会長になった時には、絶対に『パーティーで婚約破棄はさせない!』。



と言われているが、それは立派なフラグだと思う。




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(人物紹介)


☆主人公


生徒会長で侯爵家の末弟。

本人は文官希望だが、騎士として期待されている。


☆ミシェル・F・エリンギス


至って普通の男爵令嬢。

婚約破棄後、慰謝料を持参金に昔から好きだった幼馴染みの騎士と結婚した。

けっこうちゃっかり者。


☆ミシェルの元婚約者と愉快な仲間たち


ただの下働きの娘アンに騙されて、婚約破棄劇を起こした間抜け共。


☆アン


下級貴族女子寮の下働きの娘。

ミシェルの婚約者達を騙して、男爵夫人になろうとしていたが失敗。

鉱山送りになる。


鉱山というとアッチ系の仕事と思われガチですが、狭い通路で【鉱石を運ぶ】仕事ですよ。かなりの重労働です。


☆生徒会副会長


騎士団長の息子。

強いのに文官希望の会長と、賭けをして勝った人。


☆殿下


主人公達が卒業後に学園に入学する事に。

果たして、自(みずか)ら立てたフラグを折る事が出来るのか?

それはまた別のお話し……



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