第27話 とん汁

 チンまんとの長々とした取引コメントレスバトルに終止符を打ったあたしは、一階の仏間ぶつまから黒歴史下着を回収して自室に戻った。

 ブラとショーツがセットのやつで、真っ赤な布地ぬのじはじに、黒レースのフリルがあしらわれてある。

 当時、買ったあとから、「これはゴスじゃなくて小悪魔系だった」と思い、一度試着しただけで、眠りにつくことになっていた遺物である。

 この小悪魔系赤黒下着を、お望み通りにくれてやることにした。

 中古の下着はさすがにすべて処分済みだったので、そもそも選択肢がない。

 新品同然で捨てるのが忍びなく、たまたま余っていただけ。

 うってつけの供養地が見つかったということだろう。

 黒マジックのキャップを外し、赤いカップの左右表面に、印として指示されたとおり、「チンまん様へ」「棺のアリス様へ」と殴り書きする。

 部屋着のスウェットを脱ぎ、現在実用中のナイトブラを外して並べ置く。

 大きさの違いは目で見てあきらかだったので、小悪魔ブラの着用は後回しにし、上半身は裸になったままで、ショーツだけを履き替えた。

 おしり側のフィット感がややしっくりこないけれど、こちらは着用していても差し支えない。

 注文された行為をする上でも、履いておく必要があった。

 マジックペンを右手に握り、スマホを左手で持って、ベッドの上へ寝転がる。

 トークアプリを開いて、音声通話を発信した。

「もしもし、タマコ?」

「あ~い」と、眠そうなタマコの声が返ってくる。「メイちゃん……こんな夜遅くにな~に? 誰か死んだ?、と思って疑わないレベルに夜中だよ?」

「誰かが死ぬのは数日後」

「……え、なに?」

「なんでもない。――っていうか、あんたじゃないよね?」

「なにがぁ?」

「悪ふざけなら、笑えないからね。今のうちに白状しといたほうがいいよ?」

「……メイちゃ~ん、言ってることがぜんぜんわかりませんよぉ~。それになんか鼻息荒くない?」

「がんばって〝とん汁〟出してるどころだから」

「とん汁? 夜食でも作ってるの? もしも~し? メイちゃ――」

 あたしは、通話終了のアイコンをタップした。

 最後通告はこれでおしまい。

「……ああ、ダルい」

 と、右手の動きを速めていく。

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