第25話 ものとんvsチンまん ラウンド3

『ものとん様、当方が使用済みの下着をよこせとコメントをしてから、また1時間がタちましたよ。逆に、っていた当方のモノがちぢんできてしまい、シゴクことができなくなっております。至極しごくたいへんです』

 画面の向こう側でナニしてたんだよこいつ。

 タマコみたいなくだらないオヤジギャグを言いやがって。

 飛んでるぞ、頭のネジが。

『おい、ちゃんとコメント見てんのかよ。返事しろっつってんだろ。それとも、運営にトラブル報告されたいのか? 理由はどうあれお前がやったの〝無在庫販売〟だからな? 一発バンだぞ? いいのかなァ、お金が稼げなくなっても』

『わかった』

『その、わかった、は、使用済みの下着を送ります、の、わかった、で合っていますでしょうか?』

『そう。お望み通り送ってあげる』新品の下着のタグを外して。

『よしっと、決まりな。証拠しょうこも忘れずに同封しろよ』

『……証拠?』

『俺を馬鹿にしてんのか? 新品の下着のタグを外して送られるのは御免ごめんだ。ちゃんと着ました、ってことがわかるように、下着姿を自撮じどりして、写真をプリントアウトして入れろ。もちろん、チンまん様(棺のアリスちゃん)へ、って、直筆じきひつの可愛い文字を書くんだゾォ~。あっ、そう書いた紙を手に持って、スタンドミラー使って自撮りしたやつのほうがいいかな。いや、やっぱどっちも同封しろ』

『どっちも無理。自撮りもなし』

『お前みたいなやつはみんなSNSの裏アカ使ってそういうことしてんだろ? 恥ずかしがんなよ』

『馬鹿といっしょにしないで』

『じゃ、住所と名前にする? トラブル報告がいい?』

 おさえても抑えても、抑えきれないいかり。

 さんざん我慢してあげたのだから、これで十分だろう。

 素直に引き下がってくれれば、許してあげたけど、もう許さない。


 ……殺してやる。


『あたしのこと怒らせたらどうなるかわかってる?』

『こわァ~い。ものとんちゃん、キレちゃった。どうなるのかなァ~?』

『あんた生きてて楽しい? 女子高生相手にこんなことやってて恥ずかしくない? 暇でしかたないの? 誰にも相手にされなくてさみしいんだ。チビデブハゲの変態中年ロリコンヒキニート童貞だから? あんたがロリコンなのって、若い頃にろくに恋愛したことないからでしょ? 女友達のひとりもいないんでしょ? ああー可哀想かわいそう。さっさとオナニー中に死んじゃったほうがいいって。ねぇ、生きてて楽しい? あんたなんか生きててもなんにもなんないんだから。みんなが喜ぶよ。すくなくとも、あんたの両親は確実に喜ぶし。あたしも喜んであげるから。うっかり死んじゃうのがいいんだって、社会のゴミ。生きてて楽しくないんでしょ、社会のカス。うんこしか生まない糞野郎だもんね。おかしくなる前にガゾリンかぶって自分に火をつけたほうがいいよ。火葬の手間もはぶけるから。ヨボヨボのお父さんとお母さんが喜ぶよ。ほんとうに生きてていいの? 社会のお荷物なのにいいの? みんなが迷惑してるって気づいてないの? バカなの? ねぇ、生きてて楽しい?』

『キモい長文よこすなよ、メンヘラ女。レイプしてぶっ殺すぞ』


 あたしは、―――――――。


『やれるものなら、やってみれば? あたしの住んでるところなんてM県ってことくらいしかわらないのに、探せるの? ひきこもりなんかに? どうやって? 30歳まで童貞で今も現役童貞だから魔法が使えるのかな?』

『住んでるの、M県のS市だろ?』

 あたしは返答に時間を置いた。

『違う』

『I区民なんだろ?』

『違う』

『ものとんちゃん、やけに返事が短くなったねェ。もしかして今動揺しちゃってる感じ? 匿名配送が、じつはそこまで、匿名になってない、って知らなかったのかなァ?』

『……どういうこと?』

『発送状況の詳細とかぜんぜん見てなかっただろ。荷物の追跡ついせきサービスっていう便利な機能があってねェ、荷物を受け付けた郵便局から、引き渡す前に荷物を最後にあずかった郵便局までなら、たどった経路けいろがわかるようになってるんだよォ? だから、最寄りの郵便局から発送しました、なんて取引コメントに書いていたら、へぇー、この子は、M県S市のI区にあるどこどこっていう郵便局の近くに住んでいるんだな、って情報がわかっちゃうんだァ~』

『……だったらなに?』

『お前さ、何軒か郵便局回ってるだろ。そうすると生活圏が見えてきて、家がどこにあるかがしぼられてくるんだよ。行動範囲はここからここまでです、って自分で言ってるようなもんだからな。あと学校帰りに発送手続きしてるんだったよな確か。受け付け時間でもはっきりしてるし。ってことは、その近辺にある高校に通っているってのも、わかっちゃうと思わないか?』

『         』

『なんだ? 動揺しすぎて空コメントしちゃったか? その気になれば特定なんてすぐだぞ。そのうち会いに行ってやるからアソコ洗って待ってろ』

『チンまん様、この度は度重なるご無礼、申し訳ありませんでした』

『今からかしこまっても無駄ですよォ~、ものとんちゃ~ん?』

『……ごめんなさい。悪ふざけが過ぎました。許してください。お願いだから会いに来るのはやめて』

『あれ? なになに? ガクブルしちゃったの? 許してやるからLINEのアカウント教えろよ。泣きそうになってるそのツラ見せろ』

『……それだけはかんべんしてください。お願いします』

『だったら、使用済みの下着をよこせよ、って話なんだよ』

 と、またまた話が振り出しに戻る……。

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