第18話 変態さんいらっしゃい
さらに一週間が過ぎ、5月下旬。
あたしの〝ギルマ〟アカウントは生き続けていた。
今のところ、運営から届けられるお知らせは、取引に関するものだけである。
おかげさまであたしのネットショップは
毎日なにかしらが売れていた。学校帰りの郵便局通いが日課になり、同じ郵便局に毎日行くのがすこし
抵抗感は
取引相手なんて、どうせ一生会うことのない人たち。彼らが買ったものをどう
『当時のニオイはまだ残っていますか?
とか、コメントで訊いてきやがった感心なお客様には、イエスと答えて買わせたあと、ふつうは購入を
中学時代に読んでいた雑誌の付録についてきて、匂いが気に食わず一度も使うことがなかった香水がこんな形で役立つとは思っていなかった。これも出品予定だったけれど、味付け道具として保存しておくべき、と考えをあらためた。
こんな感じに、あたしのお店の客は、判断基準が一般の人と逆転している。
新品はノーサンキュー。未開封品なんてもってのほか。洗っても落ちないシミ、スレ、ヨレ、色落ち、などといった使用感があればあるほど良しとする。敬遠されがちなものほど、飛びついてくる。
冬用の厚手のものより、夏用の薄手の衣類が高く売れるのも、『ものとん's マーケット』特有の現象だ。これは買い手に、素肌や下着にふれている割合の高い品を好む傾向があるためで。Tシャツやスカートに人気が集中しているのは、そういうこと。
あとは、混入物なんかがあると喜ばれる。
『本日「
意図的に付着させていたのは、あたしが〝ギルマ〟で買い物をした際、送られてきた梱包物のなかに混入していた誰かの髪の毛。長さから出品者の女性のものと思われるそれをピンセットでつまみ、あたしの荷物に移していたのである。購入時のダンボールや封筒を流用することはあったけど、混入物を流用したのは初めてで、これも使える!、と実感した。
収納ケースに封印されていた過去の遺物がひとつまたひとつ消え去っていく。
ちょっとやそっと買い物をしても売上残高は減らない。
黒歴史錬金術によって、数値はむしろ日に日に増えている。
あたしは浮かれていた。
気がゆるんでしまっていた。
そしてついに……やらかす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます