第4話 バイバイ、ブラックヒストリー

 初めての商品が売れたのは、出品を開始してから一週間後だった。


 その日は日曜日だったけれど、厄介やっかいなウイルス蔓延まんえんによる非常事態宣言のため、行きが場なく、部屋にこもってベッドに寝そべり、動画サイトを見て時間をつぶしていた。

 ピコンっ♪

 と、スマホ画面に割って入ったのが、〝ギルマ〟からの取り引き通知。

 アプリを開くと、すでに代金は支払い済みになっていた。

 売れた商品は、中学のときの黒歴史――ゴスロリ調の長袖Tシャツだ。

『ものとん様、はじめまして✞ 即購入可だったので購入させていただきました👻 短い間ですが、お取り引き終了までよろしくお願いします♥』

 ものとん、とは、〝ギルマ〟上でのあたしのニックネームだ。会員登録時に買うことになったモノトーンのネイルチップから適当に取って付けていた。アイコンはデフォルトで、笑顔を浮かべた灰色の人型。

 コメントは、トークアプリのように、アイコンからフキダシが出てしゃべっているように表示される。購入者のアイコンは、やっぱりと言おうか、黒紫色のゴシックドレスをまとった色白少女のイラストになっていた。絵のクオリティからさっすると、購入者自身が描いた手書きの雰囲気がある。相手はたぶん、中学生の女の子だと思った。

 一時期のまわしい過去の自分を見ているようで、あたしはそこはかとなく恥ずかしさを覚えながら半機械的にコメントを返す。

ひつぎのアリス様、はじめまして。ご注文ありがとうございます。代金の支払いはお済みのようなので、商品の梱包を終えしだい、本日中にコンビニから発送いたします。どうぞよろしくお願いいたします』 

『わかりました🎃 はやい対応ありがとうございます✡』

 文末にいちいちゴス成分のある絵文字を使うのはよしてくれ……。

 でも、受け答えができる購入者だと判別はできるので、安心する。相手が内容を把握していることをうかがえ知れるのは、助かるなと思った。無言だったら、あれ?、ちゃんと見てくれているのかと心配になっていただろう。


 商品の梱包は、タマコの出品講座を受講していたこともあって、スムーズにおこなえた。

「百均に使えそうなものが豊富にあるから見に行こう!」

 学校帰り、彼女に連れて行かれた百均で、必要なものをだいたい買えそろえておいたのだ。

 今まではネットフリマに興味を持っていなかったから気づかなかったけれど、個人通販向けの品物がかなり充実していた。プチプチをはじめ、シート状の緩衝材かんしょうざい、いろんなサイズの箱、小物をまとめるロールテープ、……。専用区画まで出来ているので、利用者数の多さと、流行はやりを実感した。

「この便利アイテムはひとつ買っておいたほうがいい!」

 と、渡されたのは、梱包物の厚さを確認するサイズ計測器。

 商品の発送にはもちろん送料がかかる。〝ギルマ〟の場合、匿名配送を使うと送料は出品者持ちになり、売上げ金から差し引かれることになってる。厚さ3cmまでのものは安く遅れ、それより大きくなると、送料が跳ね上がってしまう。

「梱包してみると、やっぱり厚さが気になるんだよね。メジャーで厚さはかっても、でっぱってるところがあったりすると、いけるかな?、どうだろう?、って悩んじゃうんだよ。そんなとき、これさえあればもう安心! この3cmのわくを通るか通らないかで、一発らくちん判断可能!」

 という通販番組じみた講釈こうしゃくを受けて購入を決めたわけではないけれど、たしかに便利そうだったので購入し、実際、役に立った。


 家にあった紙袋を使って梱包を終えたあたしは、計測器で規定のサイズに収まっていることを確認後、中学時代の黒歴史のバトンを『棺のアリス』ちゃんに渡すべく、コンビニに向かったのだった。

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