第3話 ギルママスタータマコ

 ネイルチップが届いた翌日、あたしは学校でタマコにたずねていた。


「ねえ、出品するときはどういうふうにやったらいい?」

「おやおや? 〝ギルマ〟の利用は一度きりとか、言ってなかった?」

「会員登録しちゃったし、不用品がいくつかあるから、どうせなら売るほうもやってみようかなって。やり取りもあんがい簡単だったしさ」

「ほうほ~う」と、タマコは猫のように目を細くする。「つまり、この前買ったネイルチップが、あんがい良くて、あんがい気に入っちゃって、同じ出品者の商品をなんとなく眺めているうちに別なのも欲しくなったから、購入資金をかせぎたい、ってことですな?」

 アプリの導入をしぶっていただけに、乗り気になった感じを出したくなかったけれど、幼い頃からの長い付き合い、さすがにバレたか。「……まあ、そんなとこ」と吐息といきまじりであたしが返すと、案の定、「やっぱりね~。メイちゃんのことは、おじちゃんなんでもわかっちゃうんだから!」と茶化され、心底キモい。

「やっぱ、いい。ガイド読む」

「そんなの不要! ギルママスターのウチが、懇切丁寧に教えてしんぜよう!」

 ことわっても聞かないので、この日の休み時間は、タマコによる〝ギルマ〟出品ガイド講座と化した。


 彼女は買うことよりも、売るほうが多いようだ。

 ギルママスターという痛い肩書を名乗るだけのことはあり、数週間前に始めたばかりという話だけれど、取引回数は100以上もあって、その過半数が販売を占めている。

「なにをこんなに売ってるわけ……?」と、あたしは軽くひいた。「若干16歳の高2にして断捨離だんしゃりですか?」

「漫画とかゲームとかいろいろあるけど、自分の物よりは家族の物が多いかな。物置きをあさって売れそうなのを見つけたら、値段調べて出品する感じ。こんなゴミにこんな値段がつくの!?、ってもの時々あってさ、それがまたおもしろいんだよ」

 ほこりをかぶっていた『こけし』が1万円以上で売れたことがあったらしい。

 なるほど、どうりで最近、お金貸して~、と言ってこなくなったわけだ。〝ギルマ〟からのポイント付与と違い、売上金の場合は、換金ができる。売上金を小遣こづかいのしにしていたのだろう。彼女の家の物置きから売り物が無くならない限り、あたしの生活は安泰あんたいというわけだ。

 そんなことを思っていると、饒舌じょうぜつになっているタマコの口から、怖いセリフが飛び出してきた。

「これまでで一番ビビったのは、兄貴が大事にしまってたアイドルの写真かな。5枚組みのコンプとかいうやつなんだけど、聞いて驚け、なんと8千円とかで売れちゃった! たかが写真5枚で8千だよ、8千! 世の中の価値観は狂っちゃってるね」

 あたしがビビったのは金額ではなかった。

 狂っちゃってるのはあんただと思った。

「……今、『兄貴が大事にしまってた』とか言わなかった? お兄さんに黙って、勝手に売ったんじゃないでしょうね」

「黙って売ってるに決まってるじゃ~ん」さも当然のように返してくるので、常識を疑う。「でも心配無用。兄貴は買って満足するタイプみたいでさ、どれも収納ケースに新品状態でしまわれたままになってて、見返しているような形跡もないの。グッズはまさに売るほどあるし、二三十個消えちゃっててもバレないバレない」バレたときには地獄を見ることになるだろう。

「まさか物置きの物もみんな、家族に無許可で売っぱらってるわけ……?」

「え? そうだけど?」

 こいつ、やべぇぞ……。

 まあ、タマコの問題だし、あたしの生活の安泰にも関わっている事案なので、聞かなかったことにしておいた。

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