第4話「夢を探して、変身!ワナビーイエロー」1
このまま時間が止まればいいのに。それは、楽しい時間を惜しんでいる訳ではなく、失敗を嘆いている訳でもない。
そう、何もない、何もないからこそ進み続ける時の流れに焦りと恐怖を感じる
このまま明日が、未来が来なければいいのに。
大学2年、
先ほどまで同じ講義を受けていた友人はゼミがあるからと、未来に別れを告げ研究室へと消えていった。
友人達と比べ、ただ何もせず帰宅するだけの自分に情けなさを感じつつも「明日こそ何か見つけないと」を繰り返すだけの毎日。
電車に乗りSNSをチェックする、推し動画投稿者が新作の動画をアップしたとの投稿が目に入り、家に帰ってゆっくり見ようと、先ほどまでの「何かを見つけないと」はすっかり薄れてしまうのだった。
美瑠は、目の前に芸能人が座っていて、しかも自分と会話をしているという状況に極度の緊急を感じていた。
キャップとサングラスで変装し極力顔を隠している明日乃だが、お洒落な服装とスラッと伸びている頭身は目を引いてしまう。
それに比べて美瑠はファッションに興味がある訳ではなく「無難なデザインで安ければ何でもいいや」と年に数回適当に服を買う程度なので明日乃の服とは恐らく10倍ほど値段の差があるものだと想像し、途端に周りの目が気になり居心地の悪さも感じていた。
「なるほど、話は大体理解した。しかしそのザセツとやらは大時計を使って何を企んでいるんだろうか」
「時間を巻き戻して世界を征服したい!とかじゃないですかね?」
「アハハ、なるほどね。ところで、さっきも言ったけど同い年なんだから敬語じゃなくていいよ」
「あ、いや、でも、芸能人だしほら、ねぇ?」
「うーん、これはもう少し段階を踏んで行く必要がありそうだね...」
「あ、はい、すみません...」
美瑠は恥ずかしさから視線を伏せて、コップに残っているメロンソーダを飲み干した。
「さて、申し訳ないんだけどこの後仕事があるから今日はこの辺で失礼するよ。また何かあったらいつでも連絡して」
「あ、じゃあ」
明日乃に続いて立ち上がった美瑠がカバンから財布を取り出そうとしたが、明日乃がそれを止めるような仕草をし、先に財布を取り出した
「今日は私が呼び出したから私が払うよ」
「え?でも...」
「敬語、やめてくれたら割り勘にするけど?」
「じゃあ...私も...出すよ、あ、明日乃」
あまりのぎこちなさに思わず明日乃が吹き出す。その様子をみて美瑠も照れ臭そうに笑った
この日、初めて2人で笑いあった瞬間だった。
帰宅した美瑠はベッドで仰向けになり天井を見つめていた
「久しぶりに家族以外の誰かと外食したなぁ」
ポツリと独り言が漏れる
「なんだ美瑠、キミは友達がいないのかい?」
同じく隣で仰向けになっているビョウシンが反応した
「いない訳じゃないよ、ただ専門学校の頃の友達はみんなそれぞれ結果を出してるから何だか会い辛くてさ、私何も無いから」
「ふーん...じゃあ明日乃とも会い辛くなるのかい?」
「それは...」
ビョウシンの問いに答えられずしばらく沈黙が続く、ふと机の上の液晶タブレットやパソコンに視線を向けたとき、美瑠は突然に思い出した
「賞の締め切り過ぎてるじゃん...」
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