第3話「人気モデルはワナビーブルー」2

「うわぁ!?なんだアレ!?」


「ひぃぃい!怪物だああああ!!!」


現場のスタッフが何やら騒いでいる様子なので明日乃は何事かと周りを見渡す

すると何やら大きな化け物のような姿のものがこちらへと向かってきているのが見えた


スタッフ達はパニックになり次々にその場から退散していく


「明日乃!」


マネージャーが明日乃の元へ駆け寄り、明日乃の手を強く握りそのまま連れ出すように走り出す

明日乃も少しよろけながら体勢を整えマネージャーに手を引かれるまま走る

振り返ると怪物はそのまままっすぐこちらへ向かって来ている

このままでは確実に追い付かれてしまう

その時、マネージャーが躓き転んでしまった。


「大丈夫ですか?」


「いいから、はやく逃げて!」


「そんな、1人で行けませんよ!さぁ」


明日乃がマネージャーに手を差し出し彼女を立ち上がらせる

しかしその間にアキラメの化身はすぐ後ろまで来ている


「ダメ、私は走れない、明日乃!先に逃げて!」


「嫌です、絶対に手は離しません!」


明日乃はマネージャーである自分に関心が無い、お互いにビジネス上だけの付き合いという関係なんだとどこかで割り切っていたが、今、明日乃が必死に自分の手を引いてくれている、いつも以上に言葉に熱意を感じる

足が痛むのと明日乃が強く握ってくれている手から伝わる気持ちにマネージャーの目に涙が浮かぶ。

しかし無情にもアキラメの化身は明日乃達へ追い付き、明日乃を両手で掴み持ち上げた

繋いでいた手が離れ、マネージャーは尻餅をつく


「グオオオオオオオオオ!!」


化け物が明日乃を締め上げる

明日乃は苦悶の悲鳴をあげる


「明日乃を離して!お願い!」


マネージャーがアキラメの化身の足を叩く

邪魔だと言わんばかりにアキラメの化身が足を払うとマネージャーが吹き飛ばされそのまま意識を失った



「ビョーシン、何か悲鳴が聞こえるよ!もしかして」


「恐らく...行こう!」


「う、うん!」


騒ぎに気付いた美瑠は駅から先程人集りがあった方へ向かう

徐々に悲鳴をあげながら逃げる人々とすれ違う

美瑠は人の流れに逆らいながら走る

そして、建物の間からアキラメの化身の姿が僅かに見えた


「やっぱりそうだ、美瑠!」


「うん、変身!」


変身パッドを構え美瑠は変身し、アキラメの化身の前へ飛び出した


「そこまでだ!」


「やはり現れたな!アキラメの化身よやってしまえ!」


コーカイがアキラメの化身へ指示を出す

しかしアキラメの化身は一向に美瑠へ攻撃を繰り出す気配はなく明日乃を締め上げて睨み付けている


「何をしている!そんなただの人間よりあいつをやってしまえと言っているんだぁ!」


コーカイが叫ぶもアキラメの化身は従う気配がない



「須...田...明日乃...!」


明日乃が悶絶する中、どこからか声が聞こえてきた


「どうして...須田...明日乃ばっかり!私だって...頑張ってるのに!」


呼吸が詰まり、薄れゆく意識の中で明日乃は目の前の怪物の中に同じ事務所のモデルの女性の姿を感じた、恐らく微かに聞こえてくる声もこの怪物からだろうと認識した


「うおおおおおおおおおお!!!!!」


美瑠はアキラメの化身の顔と同じ高さまで飛びあがりそのまま近くの建物を蹴りアキラメの化身へ突撃するように顔面へパンチを叩き込んだ

そのダメージにアキラメの化身は手を離し明日乃が落下してゆく

美瑠は間一髪で明日乃を受け止め彼女を物陰へ運び横たえた


「須田...明日乃ぉ!」


アキラメの化身は辺りを見回している


「あいつ、誰かを探している?でも明日乃って...まさか!」


美瑠はようやくアキラメの化身に握られていたのが明日乃であることに気が付いた


「そうか、あいつは須田明日乃を狙っているんだ、させない!」


美瑠はアキラメの化身の腹を目掛けて跳び蹴りを入れた

アキラメの化身は少しよろけたが、あまりダメージを負ってはいないようだった


「うっ...ハァ...ハァ...一体何が起きているんだ...」


明日乃の意識が徐々にハッキリとしてきた

目の前で赤いヒーローのような者とさっきまで自分を締め上げていた化け物が戦っている


「だめ、私の攻撃はあんまり効いてない...ビョーシン!何か武器とか無いの?」


「あるはずだよ!変身パッドから武器を召還するんだ!」


明日乃の側から大きな声が聞こえたので驚いて辺りを見渡すが、人影は無い

そして近くに置かれているリュックサックに目を向けると、リュックから何やら動物のようなものが顔を出していた


「どうやって召還するのさ!」


「武器を召還するための項目があるはずだからそれをタップするんだ!」


美瑠がパッドをスワイプすると何やら剣のようなアイコンが出てきた、恐らくこれのことだろうとアイコンをタップする。

すると、パッドが光り、剣が出現した


「これか!」


「いいぞ、美瑠!そのまま倒すんだ!」


「ま、待って!」


明日乃が叫んだ


「え!?」


美瑠は驚いて明日乃の方を見る


「待って、その化け物は...多分私の知り合いなんだ」


明日乃がよろけながら美瑠の元へ近寄る

美瑠も明日乃へ駆け寄りふらつく明日乃を支えた


「知り合いって...?」


「声が聞こえたんです...姿も見えた...何を言っているんだと思うかもしれないけど、あの化け物は多分、私と同じ事務所で同期の子なんです...だから、殺さないでください。」


「なるほど、だからあいつはアナタを探していたんですね。大丈夫ですよ、殺したりはしません。ちゃんと元に戻してみせますから!」


「ありがとうございます」


「ウオオオオオオオオオオオ!!!!」


アキラメの化身が美瑠達へとパンチを繰り出してきた、美瑠は剣を横にしてパンチを受け止めた


「ここは危ないから離れてください!...きゃあ!」


美瑠が振り返り明日乃へ声をかけた瞬間、アキラメの化身がもう片方の手で美瑠を叩き吹き飛ばした


「もうやめて留子!なんでこんなことをするの?」


「う...うるさい...あんたに何がわかるの!成功者のあんたに私の気持ちなんてわかるわけない!」


アキラメの化身が拳を握り明日乃を潰そうと振り下ろした


「須田さん!!!」


その時、美瑠のリュックから光が飛び出し明日乃へと向かっていく

そしてその光は明日乃の頭上で止まりアキラメの化身の拳を防いだ


「わかるよ...私だって、悔しい思い沢山してきたから...今だって...今だって悔しい気持ちを抱えながらこの仕事をしてるんだよ...」


明日乃の頭上の光りは輝きを増し、その眩しさに明日乃もアキラメの化身も目を伏せた

そして光の中から変身パッドが現れ、明日乃の目の前へゆっくりと降下してきた

明日乃はそれを両手で受け取った


「キミが、キミが2人目の戦士なんだね!」


ビョーシンが明日乃へと駆け寄る


「こ、これは...」


「さぁ、変身だ!変身ボタンを押して、心を込めて変身と叫んで!」


「変身?私が...?」


戸惑う明日乃の視線の先に倒れたまま気を失っているマネージャーの姿があった

そして、目の前には苦しんでいる仲間がいる

明日乃は覚悟を決め叫ぶ


「変身!」


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