最終兵器を投下することにした。音路町のとあるテナントビルの地下に下りた先にある空き部屋。そこに伸びている水島を連行した。そして脇には件の最終兵器。【捜し屋】の一同は目出し帽で顔を隠している。


「んんっ……」


 目を開けた水島がびくりと体を震わせた。最終兵器のうち割と小柄なほうが口を開く。


「あら、お目覚めかしら?」

「は、花屋さんじゃ……」

「や~だ~!もろバレ~!」

「何でこんな事を……!」


 ヒメ子さんは腕を組んで仁王立ちになった。


「あんた、うちの乃月ちゃんの部屋に勝手に入ってるって?」

「なっ……!」

「正直に吐きなさい?合鍵なんてなんで持ってるの?」

「っ……!俺の父親はアパートの管理会社の社長で……」

「お父様に合鍵を作らせたのね?やだわぁ、過保護も過ぎれば呆れるわ」

「で?なんで乃月ちゃん?」

「……そんなの、好きだからに決まってる」


 俺はイラつきはじめた。こんな働きもせず甘えに甘えた男が大嫌いだ。


「あんたねぇ、男なら正々堂々と言いなさいよ!もっとも、ストーキングなんてする男は願い下げだろうけどね?」

「……そんな」

「一つ言っておくけどね」


 一回り体の大きなマドカさんが水島の前に立ちはだかり、顔を覗き込んだ。


「金輪際、乃月ちゃんには近付かないで。もし、近付いたら……わかってんだろうな?」


 水島はがっくりと頭を垂れる。思い切り頭をぶっ叩きマドカさんは制裁を加えた。元相撲部のでかい掌は破壊力抜群。震えがくる。


「こっちはもういいだろ。解放したら行こう」



 ベッドからむくっと起き上がった天峰は頭をがしがし掻き毟る。記憶が欠けているのだろうか。乃月は冷たいお絞りで天峰の顔を拭いていた。


「あっ、気が付いた!」

「君が…助けてくれたんだな?ありがとう」

「いや、あたしは何も……」

「天峰。よかった!」


 俺は起き上がった天峰に言った。


「何だか恥ずかしいな」

「いや、格好よかったっすよ。ハリさん」

「あれだけ見たら喧嘩強い奴の雰囲気出してましたもん」

「倒したのは彩羽やったけどな」


 彩羽が恥ずかしそうに顔を背けた。乃月は彩羽を見て小さく微笑む。


「強いんですね」

「まぁね。少し頑張っただけだよ」

「それにしても、折角のデートだったのに、悪かったな」


 乃月は首を左右に振った。


「あたしは、楽しかったです」

「そりゃよかったよ」

「けっこうスリリングで、燃えました」

「……」


 天然なのだろう。またそれはそれでいいのかもしれない。

 それから天峰は何回か乃月とデートをしたらしい。二人の問題だから俺達は関与しない。これを機に天峰の女性恐怖症が改善してくれたらいいなと思う。

 翌日、綺々先生にカメラを返却した。新作の制作を始める為の材料として早く見たいらしい。恋愛小説の題材というより、その実はスパイ小説になりそうではあるが……

 そしてあの水島はというと、ストーカー行為はぱったりとなくなった。今は地下アイドルに現を抜かし、それどころではないようだ。勿論、同じ行為をしないようにヒメ子さんとマドカさんの目が光っている。

 俺はといえば、また今川焼きをいつものように売る生活に戻った。ずんだ餡の売れ行きは相変わらず好調。この効果でキッチンカーのデザインでも変えてしまおうかなと考えたりする。

 そんな事件が勃発して暫くした頃、乃月が【今川焼きあまかわ】のキッチンカーに訪れた。俺は彼女に手を振って呼ぶ。


「どうだ、最近の調子は」

「御陰様で。あ、そうだ。天河さんにこれを…」


 乃月は一枚のCDを取り出した。どうやら彼女は歌手を目指しており、めでたくデビューしたようだ。勿論俺達の誰も知らなかった。渋いのムードが漂う若い次世代歌謡曲歌手として……


「だから、あんまりデートもできないんですよね」

「そっか、でもあいつは応援してるはずだよ?」

「ですかね?一言おめでとうってLINEはきたんですけど」

「恥ずかしいんだよ。きっと、有難う、是非聴いてみるよ」


 俺は仕事が終わった後、そのCDを自宅のプレーヤーで再生した。甘い中に力強いパワーのこもった歌声が響く。

――ちょっと天然なウブな娘は、こんなパワーも持ってたんだな。

 俺はこの夜、そのCD。作詞作曲乃月の【音路町ラブストーリー】を何回もヘビロテした。



 


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