退学ですか?処刑でしょうか?

――私の中に入っているのは一体何なの?


 ダニエラはチハルの強大な魔力を目の当たりにし、若干の恐怖と期待感を抱いた。


――もしこの娘をうまく扱えれば全ては私の意のままになるわ!……でも……。


 チハルはおろか、他の生徒にもダニエラの姿は見えない。


――何とかして私が見える人を探し出さなければ!


「はぁ……」


 チハルは職員室の前でため息を付く。

 

(入学初日から職員室へ呼び出しって……もしかして魔力がないから退学とか?)


 意を決して職員室の扉を叩いた。

 コンコンッ。


「失礼致します。……うっ!」


 頭を上げると太陽の乙女ルソレイユと目が合った。


(なんでいるの~)


――ソニア様! まさか私(チハル)の心配を?


「こちらへ」

「は、はいっ!」


 太陽の乙女ルソレイユに言われるがまま職員室の奥へ歩を進める。


「あなたが魔力を持たない生徒ですか」

「はい……」


 優しい口調でたずねてきたのは七十代後半くらいの物腰柔らかな女性だ。


「私がこの学院の理事長、ロキサーヌ・クレマンです。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします」


――理事長先生!? も、もしかして退学ですの?


 チハルとダニエラはゴクリと息をのむ。


「こちらにもう一度魔力を込めて頂けるかしら?」

「はぁ……」


 差し出されたのは手のひらサイズの宝石だった。

 宝石の中は星空の様にきらめいている。


――これは何かしら?


 いくつもの宝石を見てきたダニエラも初めて見た。


――「「きれい……」」

「コホンッ」

「っ! す、すみません」


 宝石に見惚れていたチハルに太陽の乙女ルソレイユの厳しい視線が飛んでくる。


(うぅ……この人めっちゃ怖いんですけど~……)


――バカな子ね。


「フフフフッ、それは星の魔石と呼ばれる、世界で十二個しかない貴重な石なのよ」

「――」


 元日本人のさがだろうか、高価なものが手の中にある状況にチハルは固まってしまった。


「さぁ魔力を込めて」

「で、では……」


 落とさないように、慎重に、講堂で水晶玉にやったように星の魔石に魔力を込めていく。


――また空間が!


「もっと魔力を込めなさい」

「はい」


 理事長に言われるがまま魔力を込めていく。


――な……理事長も気付いていないの?


 世界が歪んでいく。

 世界が震えてる。


――や、やめなさい!


 これ以上魔力を込めるとよくないことが起こるかもしれない。

 そう思ったダニエラはチハルの手に触れた、その時。


 パッキーンッ!


 チハルは何かがはじけた気がした。

 それと同時に世界が反転し、暗転した。


――ちょっと! 大丈夫!


 誰かの必死な声が聞こえた気がした。


(……誰?)




 チハルが目を覚ますと知らない天井がそこにあった。


(デジャヴ?)


「ッ! イッタ~!」


(頭がガンガンする……)


――やっと起きた! 死んだかと思ったわ。……この状況で佐々木チハルが死んだらどうなるのかしら? 元に戻れるかしら?


「起きたわね」

「!」


(この声は……)


 太陽の乙女ルソレイユが相変わらず厳しい視線をチハルに向ける。


「す、すみません! え~っと、何がどうなっているのでしょう?」


 チハルは辺りを見回すと職員室とは別の場所にいることに気付いた。


「あなた……とんでもないことをしてくれたわね」


――そうよ! どうするのよ!


「とんでもないこと? ですか?」


(私は何をやらかしたのだろうか?)


――あ~もうっ! お父様はともかく……お母様に殺されるわ!


 先程まで「チハルが死んだら元に戻れるかも」と言っていたダニエラが今度は心配をしている。

 それほどまでにお母様は恐ろしいのだろうか。


「これを見なさい」

「? はい」

……

……

……

「――!」


 チハルは状況を飲み込むのに五秒掛った。

 太陽の乙女ルソレイユの手には綺麗に半分に割れた星の魔石が乗っている。


――マズいですわ……これはマズいですわ……退学や弁償ならまだしも……処刑になんてなったら……。


(ヤバい……ヤバいヤバいヤバい! 退学? 弁償? もしかして処刑とか……)


 チハルとダニエラは冷汗が止まらない。


「ダニエラ・プリマヴェラ」

――「「は、はい!」」


 誰にも見えていないし、聞こえていないのにも関わらず、ダニエラもチハルと一緒に背筋を伸ばして返事をした。


「理事長が一対一でお話がある様です」

「わかりました……」

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