無能ですって?後悔なさいますわよ!
聖ピュルテ魔法女学院。
ここは幼稚舎から高等部まで魔力を持つ令嬢たちが、素敵なレディを目指し礼儀作法から魔法まで、気品を
社交界へ飛び立つその日に向けて、乙女たちは今日も
「はぁ……こっちでも女子校なのね……」
チハルは前世でも幼稚舎から高等部まで女子校だった。
そのため社会に出たとき男性社員とどうやって接していいのかわからずに苦労をしたものだ。
「はぁ……」
今世でも男性恐怖症になるかもしれないと思うと少し
――はぁ……。
ちはるのため息と同時に、ダニエラもまたため息を付いた。
――中等部から憧れだった高等部……なのになぜ私はこんなオバケみたいなことに……。
「キャー! キャトルセゾンの
「はぁ……今日も美しい……」
「お近づきになりたいわ」
声を張ってはしゃがず、
「キャ、キャト? なに? 誰?」
チハルは周囲のざわめきに戸惑っている。
キャトルセゾン。
それは魔力の高い二年生、四名からなる生徒会役員である。
この四名がキャトルセゾンである。
――どうしてこの女……佐々木チハルはそんなことも知らないの! ちょっと! 私と変わりなさいよ!
ダニエラは体に向かって勢いよく突っ込むも、案の定素通りした。
――あ~もうっ!
「まぁいいや、私とは住む世界が違いそうだしね」
触らぬ神に祟りなし。とチハルは入学式へ出席するため講堂へ向かった。
――ちょ、ちょっと待ちなさいよ!
チハルの後を追い、ダニエラも講堂へ向かった。
「う~ん、何だろう……誰とも目が合わない……」
講堂へ着いたチハルだったが、なぜか避けられている。
「う~ん」
記憶を辿っていくと、どうやらダニエラは初等部と中等部でかなり
(ある意味尊敬するわ……)
――全く、これだから身分の低い人たちは嫌ね。
ダニエラとは誰も関わろうとしない。
関わると厄介になることは初等部、中等部を通して周知されていた。
――はっ! 見てなさい! 私も二年になったらキャトルセゾンになるのだから。
「それでは皆様、これより新高等生歓迎の会をはじめます」
(あ、さっきのキャトなんとかのひとりだ。もしかして生徒会長なのかしら?)
チハルがそう思った矢先、
「生徒会長で
「――」
一言で空気が変わった。
身が引き締まるような、言葉の重みと視線で生徒たちは
「すごい……」
チハルはその
長く透き通った
そんな白銀の髪と黄金の瞳をより際立たせるのは雪の様に白い肌。
女神と言われても信じて疑わないだろう。
――そうでしょう。すごいでしょう。聖ピュルテ魔法女学院に通う者……いえ、学院外からの
「副会長の
ソニア・スペルディアと対照的に、黒く長い髪は吸い込まれる様に美しい。
瞳の色も美しい髪と同じで吸い込まれる様な黒さだが、優しく包み込んでくれる温かみのある目をしている。
そして
――ソニア様もクララ様もお美しいわ。いずれ私もおふたりと肩を並べる存在になるわ!
副会長が挨拶を終えると、これからの予定を新高等生に説明をする。
「中等部までは基礎魔法を学んできましたが、高等部からは各学部に振り分けられます。振り分け方はこちらの水晶玉を使用します」
「なるほどなるほど」
水晶玉に魔力を込めると適正属性がわかり、それぞれ振り分けられる。
属性は六種、光・闇・地・火・風・水である。
属性が判明したらオールセゾンとキャトルセゾンの各属性首席の前に行く。
(なんともまぁ純度100パーセントのファンタジーって感じね……)
――お父様の部屋にあった水晶玉で一度調べたことがあるわ。私の属性は地、つまり……
「私の番ね……」
――しっかり私の力を発揮して、セゾンの皆様に認めてもらうのよ!
しかしダニエラの思いとは裏腹、チハルが水晶玉に魔力を込めても何も起こらない。
「……貴方、ふざけているのかしら?」
「あれ? もう一度お願いします」
さっきよりも集中して魔力を込める。
しかし何も起こらない。
「え~・・・っと魔力はちゃんと込めてるのですが……」
周りがざわつきはじめる。
「無能のくせに今まで威張っていたのね」
「この学院にふさわしくないんじゃないかしら?」
チハルに聞こえてるのを知ってか知らずか、ヒソヒソと話す中に誹謗中傷が混ざっている。
(めっちゃ嫌われてるなダニエラよ)
「貴方は後で職員室に来なさい」
「……はい」
「さぁ皆さん、お静かになさい」
(はぁ……)
チハルは「なんでぇ」と落ち込む。
記憶の中には適正魔法は地のはずなのに、と。
しかしひとりだけチハルの魔力を認知していた人物がいた。
ダニエラだ。
――……は? 何これ?
ダニエラは見ていた。
ちはるが魔力を込めると空間が
――え? なんでどなたも気付いていないの? セゾンの皆様も……気付いていないようですわね。
二度目に魔力を込めたときは、空間の歪みだけでなく、地震のように世界が震えた。
――きゃっ! な、なんなのこの力は!
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