おしまいですわ!

 太陽の乙女ルソレイユに案内されたのは職員室ではなかった。


「中で理事長がお待ちです」


(理事長室……)


 扉のプレートにはそう書かれていた。


(うぅ……どうか退学だけで済みますように……)


 大きく深呼吸してから扉を叩く。

 コンコンッ。


「失礼致します……」


 チハルは顔を伏せながら理事長室へ向かっていく。


――処刑以外、処刑以外、処刑以外……


 ダニエラはうわ言のように繰り返す。

 打ち首にでもなったなら体に戻るどころの話ではない。

 戻ったところで「死」しかない。


「お掛けなさい」


 理事長の一言がまるで死刑宣告にしか聞こえなかった。

 普段のチハルなら柔らかく座り心地の良いこのソファに感激するところだが、頭の中は真っ白だ。


「星の魔石を見して頂けるかしら?」

「――はひっ」


 上ずった返事をしたチハルだが、そんなことも気付かないほど緊張していた。


「まぁキレイな断面ね。ウフフフ」

「――」


 理事長の笑顔が怖い。


――もうおしまいですわ……。


 ダニエラも理事長の笑顔を見て絶望に打ちひしがれた。


「申し訳ございません!」


 チハルは土下座した。

 ソファから地べたへ滑らかに。

 あまりに動きが滑らか過ぎてダニエラの目にはスローモーションに映るほどだった。


――ちょっと! 何をやってらっしゃいますのー!


 絶望していたダニエラだったが、土下座姿の自分を見て我に返った。


「頭を上げなさい。お召し物が汚れますよ」


――そうよ! みっともない!


 チハルはゆっくりと頭を上げた。


「少し落ち着いて話しましょうか」

「……はい」


 チハルがソファに座り直したのを確認すると、理事長が「コホンッ」と小さく咳払いをした。

 チハルとダニエラは「ビクッ」と肩を揺らして、言葉を待った。


「星の魔石の件は許します」


(え? 今なんて?)


――許す? 許すっておっしゃいました?


「ほ、本当ですか?」

「ええ」


(イヤッター!)


――よかった……よかったですわ~。


「ただし、ひとつ正直に答えて頂きます」


 喜びも束の間、理事長の厳しい声が飛んできた。


「な、なんでしょうか?」


 先程までの優しい目つきから一転し、鋭い目つきでチハルを見据えた。


――な、なんですの?


 ダニエラも理事長のただならぬ雰囲気に圧倒された。


「貴方はこの世界へ何しに来たのかしら?」

「……それはどういうことでしょうか?」

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