②クケ子の新能力『超肉盛り』

 ゴーレム山の麓にある町の休憩茶屋で、クケ子たちは往来する人々を眺めながら。

 名物の【ゴーレム山菓子】を注文して食べていた。

 皿の上に膝抱え座りをしたゴーレム型の和菓子が乗っていて、竹の食事用刃物で縦に切ると、金時のようなモノの中に、こしアンみたいなモノが一回り小さいゴーレムになって入っていた。


 菓子を口に運びながらレイジョーが、最高の笑みを浮かべながら言った。

「おいしいぃ、凝っていますね。このお菓子……悪いですね、あたしまでごちそうになっちゃって」

「もう旅の仲間ぜら、遠慮する必要はないぜら」

 拓実は、レイジョーが小皿に乗せた菓子の欠片を、ハエのように這いつくばって食べている。

 この、時代劇に登場するような和風茶屋は、アチの世界の文化に魅了された店主が、住居を改築して作った店らしい。


 すすったお茶を、顎の隙間から垂らしながら、クケ子がレミファに訊ねる。

「魔獣の復活を狙っているって、どういうコト? どうやって封印された魔獣を復活させるの?」

 全員の視線がアリャパンゴラァに注がれる、魔獣アリャパンゴラァは自分が閉じ込められていた魔獣球を、クケ子が自分の世界に帰っている間に叩き壊してしまったらしい。

「各地に伝承が残る場所があるぜら、そこを巡ってみるぜら」

「魔勇者の娘の軍団と、ハチ合わせる場合も?」

「当然、あるぜらね」


 クケ子たちから、少し離れた茶屋長椅子から、聞き覚えがある声が聞こえてきた。

「すみませ──ん、ゴーレム山菓子と、ホットなお茶くださいドスドス」

 聞き覚えがある特徴的な語尾。

 見ると魔女ルックの自称魔法少女、シドレが座っていた。

 運ばれてきた、煎茶と和菓子を飲み食いしながらシドレが、クケ子たちに聞こえるように呟く。

「今は休憩中だドスドス、やり合うつもりはないでドスドス……リーダー軍団の連中がここに来たら傍観する、勝手にやってくれドスドス」

 すぐに、甲冑騎士を加えたリーダー軍団がやって来た。

 甲冑騎士がクケ子たちを見て言った。

「な、なんで! ここにおまえたちがいるんだ!」

「茶屋で休憩して悪いかぜら、座席から立ち上がったら休憩終わりだぜら」


 クケ子たちが立ち上がり、臨戦態勢の緊張感が茶屋の周辺に漂う。

 剣を抜く甲冑騎士と、石器の槍を構える蛮人戦士。

 リニューアルして大小の盾を顔、腕、胸、膝に装着した防御専門の盾武人。

 ビキニアーマーの海賊女勇者は、シドレの隣に座って一緒に煎茶をすすって休憩している。


 レミファがクケ子に言った。

「ちょうどいい機会ぜら、クケ子どのの新しい力を試すぜら……レイジョーどの、檻の中へ」

「やっと、この肉体がお役に立つ時がきたのですね」

 ワクワクした顔で角柱型の檻の中に入る、アクヤク・レイジョー。

 レミファがクケ子に、新呪文を耳打ちする。

 うなづく、クケ子。

「わかった、その呪文を叫べばいいのね」

 日本刀を鞘から抜いて構えたクケ子が叫ぶ。

「超肉盛り!」


 檻に入ったアクヤク・レイジョーの体から血肉がクケ子に向かって流れ、クケ子の骨体に肉づけされる。

 鍛えられた、筋肉美女体の傭兵へと変わるクケ子。

 適度に隆起する腹筋や、肩や腕の筋肉を撫でて確認しているクケ子にレミファが言った。


「筋肉の付き具合は、クケ子どのの希望通りに調整できるぜら……今のクケ子どのの肉体は、筋肉フェチが羨望する筋肉美の肉体ぜら、もっとマッチョなムキムキ筋肉女も可能ぜら」


 刀を上段に構えるクケ子。

「なんか、体にパワーが満ち溢れている……どりゃあぁぁ!」

 炎の疾風に吹き飛ばされ、天高く舞い上がるリーダー軍団の面々。

「おわぁぁぁ!」

「覚えていろぅぅ!」

 和菓子を食べ終わって、煎茶を飲み終わったシドレは立ち上がると。

「おやおや、ドスドス」

 と、言って。クケ子たちに一礼すると。

 海賊女勇者と一緒にリーダー軍団が飛んでいった方向へ歩いていった。


 クケ子が、レイジョーの方を振り返って言った。

「すごいよ、この体! 力が沸き上がって……げっ!?」

 檻の中には、白骨化したレイジョーと一緒に、フェアリーの羽を生やした拓実も白骨化していた。

「うわっ、超肉盛り解除! トリガラ! トリガラ!」

 クケ子から血肉が、檻の中にもどり。アクヤク・レイジョーと拓実が復活する。

 檻から出てきたレイジョーが、高揚した表情で言った。

「どうでした? あたしの肉体?」

「うん、すごかった」

 クケ子の顔が、少しだけ赤く染まったように見えた。

 一行は、魔獣が封印されていると伝承が残る、ゴーレム山の中腹へと向かった。

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