双子ゴーレム山へ
①術師軍団と狂剣士ワオ・ン
【双子ゴーレム山】──膝抱え座りで並んだ、二体の巨大なゴーレムの体に長年に渡り土砂が蓄積して、樹木が繁り山になった。
二体のゴーレムは、吊り橋で繋がり、通年を通して登山者で賑わう。
そんな双子ゴーレム山の麓にある町のギルド食堂のテーブルで、狂剣士『ワオ・ン』は術師軍団を前に、木製のカップに入った飲み物を飲みながら言った。
「だからぁ、この世の中に魔法とか魔導なんて存在しないんだってば」
手品しかできない魔法使いが、手を横に振る。
「いやいやいや、あんたそれを言ったら。この異界大陸レザリムスと、オレたち術師軍団の存在自体を否定しているコトになるから」
手品しかできない魔法使い。
顔色が悪い死霊使い。
小魔獣しか扱えない魔獣召喚師。
南方のお面をかぶった呪術師。
術師軍団の面々は複雑な面持ちで、お目付け役になったワオ・ンを。
(なんで、この人がオレたち術師軍団のお目付け役に?)
そんな目で見ていた。
木製カップの飲み物をを飲みながら、テーブルの中央に置かれた大皿に乗った、沼ドラゴンの兜煮を食べながらワオ・ンが術師軍団に訊ねる。
「で、封印された魔獣の場所の目星はついたのか?」
「いや、それはまだ」
「そうか、今回はリーダー軍団と術師軍団の合同作戦だからな……どちらかの軍団が先に封印された魔獣を発見して、飼いならせるかが勝負だ」
フォークで刺した、沼ドラゴンの頬肉を豪快に食べている、ワオ・ンに魔獣召喚師が訊ねる。
「甲骨さまは、復活させた魔獣で何をするつもりで?」
「オレも詳しくは知らんが、なんでも魔獣だけの軍団『魔獣軍団』を新たに新設したいらしい」
「はぁ? また軍団増えるんですか? しかも魔獣だけの軍団?」
食事が終わったワオ・ンは椅子から立ち上がる。
「少し食べ過ぎた……そこら辺を走って運動してくる」
そう言い残して、ワオ・ンはギルド食堂から出ていった。
狂剣士がいなくなると、魔法使いが小声で魔獣召喚師に質問する。
「おまえが、召喚しているモフモフの魔獣と。甲骨さまが求めている魔獣は違うのか? 赤いガイコツも魔獣を一体連れているぞ?」
「魔獣と一口に言っても、いろいろと種類がある……小山のように巨大な魔獣がいれば、オレが召喚できる愛玩魔獣まで、さまざまだ。赤いガイコツが連れている魔獣は、種別がよくわからん……なんとなく、この世界の魔獣じゃない気がする」
魔獣召喚師の話しだと、犬や猫にさまざまな種類があるように、魔獣や魔物もいろいろな種類分類があるらしい。
魔獣召喚師は、一冊の書物を取り出して見せる。
「詳しくは、オレの祖父が書き残した、この『レザリムス魔物&魔獣図鑑! 最強の魔物&魔獣はどいつだ!』を買って読んでくれ……トーナメント方式で魔獣同士の強さ解説も載っている」
「宣伝かよ! んっ、どうした死霊使い? 沈んだ表情をして?」
「いや、ワオ・ンさんの話しを聞いているうちに……本当は死霊なんていないんじゃないかと思えてきた。死霊はオレの妄想の産物じゃないかと……あぁぁ! オレはいったい何なんだ?」
「自己否定するな! そうだ、例のアレやってくれ……おまえの力で呼び出した、アイツをみんなで殴り蹴ればスッキリする」
「わかった……やってみる。甲骨さまには内緒のアレだな」
死霊使いは、亡くなった魔勇者の死霊を呼び出した。
冥界から強制的に現世に引っ張り出された、透けて見えるメタボ体型な魔勇者の死霊は、術師軍団を見た途端に怯える。
「ひっ!?」
魔法使いが顔を、魔勇者に近づけて挑発する。
「ほらっ、殴ってみろよ。一発殴らせてやる」
魔勇者の拳は、魔法使いの体を素通りする。
「効かんなぁ、だがオレたちの攻撃は、おまえにヒットする」
術師軍団に、ボッコボッコにされる魔勇者の死霊。
「うぎゃあぁ!」
魔勇者の魂は、術師軍団のストレス発散に利用されていた。
魔勇者の死霊を足蹴りしている、死霊使いに笑顔がもどる。
「なんか、どうでも良くなってきた」
術師軍団がストレスを発散させてスッキリとした顔をしていると、外を
走り回ってきたワオ・ンが食堂に戻ってきた。
「あひゃひゃひゃひゃ」
黒白目で、狂笑しながら走ってくる、ワオ・ンを見て怯える術師軍団。
「うわぁ! 狂剣士の目だぁ!」
ワオ・ンは、そのままの勢いで魔勇者を殴り吹っ飛ばす。
「あひゃひゃひゃ」
「ぴぃぃぃん」
涙を流しながら吹っ飛んだ、魔勇者の死霊は空中で拡散して消えた。
狂剣士から元の状態にもどるワオ・ン。
「ふぅ……走り回ってきたいい汗かいた、今なにかを殴ったような気がしたが? 気のせいだな」
ワオ・ンが、タオルで汗を拭きながら言った。
「外で中央湖地域に本部がある、『ルググ聖騎士団』の連中が歩いていたのを見たぞ……この辺りに支部はないから居場所を持たない、ハグレ騎士団だな」
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