③赤いガイコツも人知れず努力している。

 鉄火が言った。

「あたいたち、遊び人は互いを干渉しないのが暗黙のルール。小カジノに宿泊はしてはいるけれど、あんたたちのやるコトに口出しはしない……その代わり、あたいたちのやるコトにも口出しは無用」

 強欲王は、鉄火の言葉に黄金色の唇を噛み締めてうなづいた。


 その頃、魔王のマオーガ城では──ナニ・ヌネ野が、遺跡の都から送られてきた木箱を開けて、箱の中身を覗いて残念がっていた。

「なんだ、食いもんじゃねぇのか……食べられない乾きモノか」

 箱の中には、ヌネ野から『背脂!』の秘術で血肉を吸い取られ、骨と皮になった乾き術師たちがピクピク蠢き入っていた。

「チッ!」

 残念がって振り返った、ヌネ野の背後に魔女の格好をした、自称魔法少女シドレが立っていた。

 凄んだ声で呟くシドレ。

「ちょっと目を離した隙に、盗み食いですかドスドス……勝手に送られてきた木箱を開けて、お行儀が悪いですね……これは、お仕置きですドスドス」

 お目付け役のシドレの言葉にビビるヌネ野。


「ひっ! あれだけはやめろぉ!」

「ダメです、反省してくださいドスドス」

 シドレが口笛を吹くと、どこからかバレーボールくらいの大きさをした、雉柄の羽毛とフワフワ体毛の球体生物『モフモフキジ』たちが跳ねて現れ、ヌネ野の体にまとわりつく。

「や、やめろぉ! くすぐたい! オレから離れろ! やめてぇ! あはははははっ」

 シドレが飼っている、モフモフ生物のくすぐりお仕置きに、床でのたうち回るヌネ野。

「あはははははっ、ひーひーっ、脇はダメぇ、あははははっ」 

 シドレは、ヌネ野を無視して木箱の中でピクピクしている、乾燥術師たちを眺めて言った。

「まったく、手間がかかる連中……お湯で元にもどさないとドス、それにしても。遊び人軍団はどこをほっつき歩いているのやら、ついでに『盗賊軍団』の連中もどこにいるのやらドスドス」

「あはははははっ」


 翌朝の渓谷屋敷近くの森──朝霧が残る森の中で一人、削り出した木刀で樹の幹に向かって、ひたすら木刀を突き続けるクケ子の姿があった。

「はぁぁっ」

 何回も、何回も、ひたすら突きの練習をするクケ子の渾身の突きの一撃が、樹の幹を貫通する。

 樹を貫き刺さったままになる木刀。

 出るはずがない顔の汗を、タオルで拭くクケ子。

 その時、近くから女性の声が聞こえてきた。

「それが、赤いガイコツ傭兵カキクケ子の強さの秘密ピキィ、人知れず努力していたピキィ。なるほど、やっぱり楽して本当の意味で強くなれるはずがないピキィ」

 ガイコツの目を向けたクケ子の眼窩に映ったのは、茂みの中から出ている二本のウサギ耳だった。

「誰?」

 枝葉を両手に持って、茂みから立ち上がったのは、可愛いウサギ耳……と、ウサギ頭の成人女性だった。

 アチの世界のカジノでルーレットを回したり、カードをお客に配る、女性カジノディーラーのような格好をしていた。


 ウサギ頭の女性ディーラーが茂みから出てきて言った。

「自己紹介するピキィ、あたしは遊び人軍団の一員、ウサギ頭のディーラーでピキィ、以後よろしく……あたしたち遊び人軍団は、リーダー軍団や術師軍団のような不毛な力業の戦いは好まないピキィ」

 ウサギ頭ディーラーは、ケモノ座りをすると足でウサギ耳の後ろをカキカキした。

「以前から興味があったピキィ、レザリムスの東方地域のあちらこちらで、発見されている木刀が突き刺さった岩や大木……謎のアーティスト作品と噂され、木刀が刺さった場所は名所になっているピキィ。

真相は赤いガイコツ傭兵の鍛練場所……一つ質問してもいい? ずっと疑問に感じていたコトだけれど」

「何?」

「あんたたちは、どうやって収入を得ているピキィ? 昔みたいに退治をしたら金貨や宝石に変わる魔法モンスターも今はいないピキィ。

農作物を荒らす害モンスター退治も、地元のハンターが退治をするから、報酬金の依頼ビラみたいなのもないピキィ。

どうやって収入を得ているか不思議ピキィ?」

「そのコトかぁ……他の人はどうやって収入を得ているのか、わからないけれど、あたしの場合は」

 クケ子は自分の赤いガイコツ顔を指差す。

「この姿が、偶然にレザリムスでチェーン店展開をしている。コーヒー店のシンボルと同じで……旅をして歩き回るだけで広告収入が、口座に振り込まれるの……科学召還請け負い業のおっちゃんがコーヒー店と話しをつけて、スポンサー登録してくれたの」

「あっ! 知っている、知っている! あの赤いガイコツがシンボルマークのコーヒー店! 長い間の疑問が解決したピキィ」


 その他の収入源は、クケ子たちが旅をして、立ち寄った土地で目立つ行動を起こせば、それだけでその場所が名所や聖地になり。

 多くの旅人が立ち寄って金銭が動き豊かになり、町や村が豊かになったお礼でクケ子の口座にお礼金が振り込まれるの仕組みになっていた。

「つまり、あたしたちが漫遊すればするほど、町や村が有名になって。あたしたちにも収入が入ってくるって仕組みなの」

「なるほど、それは勉強になったピキィ……あれっ? あの子?」


 ウサギ頭のディーラーが見ている方向に、森から吊り橋で繋がった別台地の森へ。

 渓谷屋敷でクケ子たちが会った、ハーフエルフの男の子が足早に渡って

いくのが見えた。

 ウサギ頭のディーラーが取り出したニンジンを、ポリポリかじりながら言った。

「いろいろと教えてもらったお礼に、いいコトを教えてあげるピキィ……あの、ハーフエルフの男の子が吊り橋を渡って向かったユニコーンの泉の台地。

今朝、小カジノの強欲王が台地の所有権を地主から大カジノを造るために買い取ったピキィ……何が厄介なコトが起きる前に、あの子を連れもどした方がいいピキィ」

 クケ子に背を向けて、数歩進んだウサギ頭のディーラーは、立ち止まるとクケ子に背を向けたまま言った。

「この世の中には、力じゃ解決しない事柄もあるピキィ……そのコトをよく覚えておくピキィ」

 そう言い残して去っていった。

 クケ子は、ハーフエルフの男の子を追って吊り橋を渡った。

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