④この世の中には、剣や魔法では解決できないコトもある
吊り橋を渡って【ユニコーンの泉】に入ったクケ子は、森に囲まれた泉の畔にいる三頭のユニコーン──ユニベロスと、ユニベロスの近くで親しげにしている、ハーフエルフの男の子を発見した。
クケ子が近づいても、ユニベロスは逃げるコトもなく。男の子に左側の頭の鼻先を撫でられている。
なぜか、真ん中の頭と右側の頭は男の子から顔をそむけていた。
クケ子がハーフエルフの男の子に質問する。
「いつも、ここに来ているの?」
うなづく、ハーフエルフの男の子。
「この、ユニベロスがボクの友だちだから」
「お父さんは、いつも屋敷にいない……そのくせ、勉強ばかりさせて。ボクを自由にさせてくれない……屋敷にばかりいると息が詰まる、ねぇガイコツのお姉さん……旅って楽しい?」
「楽しいコトばかりじゃないけれど、仲間と一緒にいるから楽しいかな? どうして、そんなコトを聞くの?」
「ボク、いつの日が屋敷を出て世界を見て歩きたい……こんな狭い渓谷から出て……お父さんは許してくれないかも知れないけれど」
「そっか」
クケ子が、ユニベロスの頭を撫でようと骨の手を近づけると、右側の首だけがクケ子の手に顔を近づけ、手の匂いを嗅ぐとすぐに複雑そうな表情で顔をそむけた。
【三頭ユニコーン】〔ユニベロス〕
真ん中の首はセオリー通りに純潔の乙女になつき。
右側の首は経験豊富な熟女好きで、処女を軽蔑する。
左側の首は男好きで、真ん中と右側の首は男嫌い。
その時──いきなり、投げ網がユニベロスに向かって投げつけられ。一瞬にしてユニベロスが網が飛んできた方向に引っ張られた。
「へへっ、レアなモンスターゲットだぜぇ、強欲王さまがお喜びになる……オレさま、つぇぇぇ! ひゃはは!」
強欲王の手下の、偏差値が低そうなトサカ頭の男たちだった。
なぜか、ヘソ出しの踊り子も男たちと一緒にいて腰を振って踊っている。
ハーフエルフの男の子が、男たちに向かっていこうとするのをクケ子は必死に止める。
「ボクの友だちを返して!」
「はぁ? 聞こえねぇなぁ、この場所は強欲王さまの
トサカ頭が指笛を吹くと、黄金色に輝く巨大なゴールド・ワイバーンが飛んできて、網ごとユニベロスを足爪で掴み浮かび上がる。
踊り子は踊っている。
ユニベロスを連れ去ろうとしている、偏差値が低そうな男たちに泣きながら飛びかかろうとしている、ハーフエルフの男の子の手を引っ張って、樹の根元に座らせたクケ子が男の子に言った。
「ここで動かないで、あたしが君の友だちを取り返す」
男たちの方に向き直ったクケ子が、刃の欠けた日本刀を引き抜いて叫ぶ。
「肉盛り!」
空に飛び上がって、小カジノの方向に飛び去ろうとしていた、ゴールド・ワイバーンの尻尾の一部がクケ子に吸収されて白骨化する。
踊り子は踊りながら白骨化した。
生身にもどったクケ子を見て、悲鳴を発する強欲王部下の男たち。
「ひいぃぃぃ!? 呪われたガイコツ傭兵だ!」
「逃げろ! 呪われるぞ!」
白骨化した踊り子は男の一人におんぶされて、ゴールド・ワイバーンは、ユニベロスを掴んだまま恐怖に怯える鳴き声を発して……一斉に逃げていった。
逃げていく連中に向かって怒鳴るクケ子。
「こらぁ! ユニベロスは置いていけ!」
生身になった頭を掻きながら、クケ子がハーフエルフの男の子の方へ振り返りながら言った。
「ごめん、ユニベロス助けられな……いっ!?」
ハーフエルフの男の子が座っていた樹の根元には、白骨化した子供が座っていた。
慌てて肉盛りを解除するクケ子。
「ひえぇぇ!! トリガラ! トリガラ!」
クケ子の姿が赤いガイコツにもどり、ハーフエルフの男の子は生き返った。
小一間後──クケ子たち一行は、小カジノの前に横一列で整列していた。
小カジノの入り口には、生き返った踊り子がベリーダンスをしていて。
入り口の両側には、トランプ柄の服を着た人間のギャンブラーと。
ホブゴブリンの予想屋と、その弟子のクジ引き屋がいた。
空中に放り投げたコインを手の中に受け止めたギャンブラーが、予想屋に言った。
「なっ、オレが言った通りに赤いガイコツは来ただろう。賭けはオレの勝ちだな」
舌打ちをした、老ホブゴブリンの予想屋は、渋々布袋から取り出した硬貨をギャンブラーに渡す。
「チッ、予想屋の儂が予想を外すとは……焼きが回ったか」
クケ子たちを上目づかいで眺めながら、弟子のクジ引き屋に訊ねる。
「おまえは何人だと思う? 儂は三人と見た」
「一人が限界じゃないでスか、後は逃げ帰りっス」
「ギャンブラー、おまえは何人に賭ける」
「全員だ、四人全員」
「ゼロ人と二人なら、勝ち負けなしだな」
クケ子たちが、いったい何の話しを遊び人たちはしているのかと、首をかしげていると。
小カジノ店の中から出てきた、ウサギ頭のディーラー女がクケ子たちを見て言った。
「やっぱり、ユニベロスを取り返しに来たピキィ……うちのリーダーと、賭けで勝負をして勝ったらユニベロスを返してあげるピキィ……誰が最初に勝負するピキィ」
大小の剣を装備した
「拙者が行こう」
意気揚々と、小カジノの中に入っていくヤザ。
数十分後──負けて身ぐるみを剥がされ、フンドシ姿一丁のヤザが出てきた。
「不覚……拙者、賭博は弱かったようでござる」
ヲワカが、髪を掻き上げて進み出る。
「次はあきちが、ヤザの無念を晴らすでありんす」
数十分後──弓矢を失い、エルフの下着姿になったヲワカが、両腕で体を抱えながら出てきて言った。
「ダークエルフのツボ振り女は、強かったでありんす」
クケ子が小カジノに向かって走る。
「あたしに、任せて! うりやぁぁ!」
数十分後──赤いガイコツが、小カジノ店からトボトボと歩いて出てきた。
ウイッグを失った頭蓋骨の後頭部に、片手を添えてクケ子が言った。
「えへっ、負けて身ぐるみ剥がされちゃった♪」
「なんで、クケ子どのだけが、下着も脱がされてガイコツだけの姿に……仕切り直しするぜら、屋敷にもどるぜら」
小カジノに背を向けて、屋敷に逃げ帰るクケ子の耳に、予想屋の声で。
「負けたのは三人か……賭けは儂の勝ちだ」
そう言っているのが聞こえた。
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