④水と土の予言「丸く輝くモノ」

 ヌネ野は、日本刀の柄に手をかけて言った。

「オレは、おまえの余分な脂身から誕生したらしい……面倒くさいから、ここで始末しちまおぅか」

 ヌネ野が、今にも刀を引き抜きそうな雰囲気の中──どこからか、ツカツカと歩いてきた。魔法少女シドレがヌネ野のお尻をつねる。

「痛てぇ」

「何やっているんてすかドス、自分のオリジナルを見たいって言うから。

甲骨さまは特別に外出を許可したんですよドスドス。

お目付け役の、あたしが見ていない所で勝手なコトしていたら、甲骨お姉ちゃんに言いつけますよ……ドスドス」

「うわぁ、お姉ちゃんには言わんといて怒られる」


 クケ子の方を向き直って、シドレが言った。

「ここは自己紹介しといた方がいいみたいドスドス、初めましてあたしは、甲骨さまの片腕の一人。魔法少女シドレでドスドス」

「魔法少女? その格好と年齢だと、どう見ても魔女……」

 いきなりシドレが、威光的な勢いで、顔をクケ子に画面いっぱいに近づけて言った。

「あたしが魔法少女だと言っているから、魔法少女でドスドス……何か問題でも?」

 シドレの威圧感に圧倒されるクケ子。

「うわぁ! ありません、ありません! あなたは、どこからどう見ても魔法少女です!」

「わかればいいで、ドスドス」

 魔法少女にこだわる、ドスドス女だった。

 アイドルになりそこねて、年齢を重ねてデビューした芸能人のようなシドレが言った。

「今日は今夜の宿を見つけないといけないので、失礼するでドスドス……行きますよ、ヌネ野」

 シドレは、レミファをチラッと見てから一礼すると、ヌネ野を連れて去っていった。

 シドレとヌネ野の姿が建物の角を曲がって見えなくなると、レミファがぽつりと呟いた。

「魔勇者の娘の片腕の一人と言っていたぜら……他にも片腕的な者がいるぜらか?」


 その頃──ヲワカは、カプセルに入って、水の都の観光を楽しんでいた。

 連なった水中鳥居を、感心して見上げているヲワカに観光案内をしている湖中人が言った。

「水の都には、こんな予言が伝わっています

『赤い骨がこの地に現れる時、脂身の分身も現れる、水の都の民は土の都の民と協力して水をもって、水で美しき球体を作り出せ』」

「どういう意味でありんす?」

「さあ?」


 同刻──ヤザは土の都で観光を楽しんでいた。

 レンタルした土壌人なりきりグッズで、下半身ミミズ姿で、荘厳な大ミミズの天井絵を見上げているヤザに、観光案内をしている土壌人が言った。

「土の都には、こんな予言が残っています

『土の都の民は水の都の民と協力して土をもって赤き骨の救世主を助けよ、さすれば脂身の玉は土が生み出した輝く球体で退く』」

「どういう意味でござるか?」

「謎です」



 翌日──ホテルをチェックアウトしたクケ子一行が、次の目的地に向かうために、平凡な町の都の通りを歩いていると『術師軍団』が行く手を遮った。

 魔法のステックを持った魔法使いが、クケ子に向かって一晩考えた、登場口上を言った。

「赤いガイコツ傭兵! 我ら術師軍団の刃受けてみろ!」

 すかさず、ツッコミを入れるレミファ。

「誰も剣や刀を持っていないのに、どうやって刃を向けるぜら」

 レミファに指摘されて動揺する魔法使い。

「う、うるせぇ! 気持ちだよ、気持ち! 雰囲気を読め! まずはオレが魔法攻撃で、おまえたちをネズミに変えてやる!」

 レミファが、クケ子たちに最初は相手にするなと、目で合図を送りクケ子たちはそれに従う。

 呪文を唱えた魔法使いが、ステックを振るう。

「ネズミになれ!」

.魔法のステックから、ポンッと白い煙が出て、紐に連なったレザリムス大陸各国の旗が出た。

 鼻で笑うレミファ。

「ふんっ、魔力を感じなかったから変だと思ったぜら……手品師だったぜらか」


 落ち込み、背を向けてしゃがみ込む魔法使い。

「ちくしょう、ちくしょう、オレだって、オレだって魔法使いなんだよぅ……ぐすっ、後は頼んだぞ『魔獣召喚師』」

 いきなり、無茶ブリされた魔獣召喚師は、二日酔いが残る頭を軽く叩いて一本、進み出てきてクケ子たちに言った。

「最初に言っておく……笑うなよ」

 魔獣召喚師が、召喚術でレザリムス内に生息している魔獣を呼び出す。

 召喚ゲートから、ポンッポンッ出てきたのは。バレーボールくらいの毛玉に点目がついた、ネコ耳が生えた愛らしい魔獣だった。

 魔獣の底には、野球のグロブくらいの大きさをした、ネコ科動物の肉球が一個ついていた。


 レミファが召喚された魔獣を見て呟く。

「『モフモフタマ』だぜら……ちっとも、怖くない魔獣ぜら……嫌われなかったら」

 魔獣召喚師が、クケ子たちを指差して魔獣に命じる。

「あいつらを襲え! 下等な魔獣ども!」

 召喚師の言葉を聞いた、モフモフタマたちの目が点目から怒りの尖った赤い針目に変わり、毛を逆立てて召喚師をギョロと睨む。

「どうした、命令に従って早く襲え! 下等生物」

 開いた赤い口の中に鋭く細い歯が見えて、威圧的に召還師に命じられて起こった毛玉魔獣が、魔獣召還師に襲いかかる。

「うわぁぁぁ、またか! 襲うのはオレじゃない! ひいぃぃ!」


 魔勇者から力を奪われて弱体化させられた、魔獣召喚師はレザリムス内の愛らしい魔獣しか召喚できない。

 そのうえ、召喚した魔獣たちから嫌われていて、ちょくちょく襲われる。

 召喚師をボッコボッコにして気が済んだ、モフモフ魔獣は召喚ゲートかから元の生息地にもどっていった。


 地面にうつ伏せで倒れている魔獣召還師が、自虐気味に呟く声が聞こえた。

「笑いたければ笑え……フっ、後は任せた『死霊使い』『呪術師』……ガクッ」

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