⑤ナニ・ヌネ野の能力「背脂!」〔ラスト〕
魔獣召還師から、術師攻撃を託された『死霊使い』は、すでに死者を呼び出す
煙の中から、一つ目種族の老夫婦死霊が現れる。
農夫の格好をして農耕具を持った老夫婦の夫霊が言った。
「ここは、どこじゃ? あの世ではないようじゃが?」
死霊の老婆妻が言った。
「もしかして、また現世からの呼び出しですか? あの世でおじいさんと、のんびり暮らしていたのに」
死霊使いが、クケ子たちを指差して死霊の老夫婦に命じる。
「行け……死にぞこないの死霊ども」
一つ目の老夫婦霊が、若い死霊使いの言葉にキレる。
「なんじゃ! その口のきき方は! ラブラドの一族をナメるな!」
「おじいさん、生意気な若造をヤッてしまいましょう!」
死霊使いに襲いかかる、一つ目の老夫婦霊。
死霊の拳はなぜか、物理攻撃となって死霊使いの顔面に炸裂する。
「うぶっ……げぶっ」
「今度から、死霊を呼び出す時は。礼儀をわきまえるんだな」
そう言って、老夫婦の一つ目死霊は煙になって消えた。
死霊使いの、か細い声が聞こえてきた。
「オレたちの屍を越えていけ……『呪術師』」
最後に残った仮面の呪術師は肩から提げた、植物繊維を編んだ袋から、布製の呪い人形を取り出す。
呪い人形には表面に、縦長で小さな傷口のような金具穴が数十ヶ所開いていた。
呪術師がボソッと言った。
「呪術ターゲット……赤いガイコツ傭兵」
小さな剣を一本づつ、呪い人形の穴に、ビビりながら刺していく呪術師。
数本目を刺しながら、呪術師がクケ子に質問する。
「どうだ、体のどこかが痛くなったか?」
「別になんとも? ねぇ、そもそもガイコツに呪いって効くの?」
剣を刺す呪術師の動きが止まる、呪術師の意識は幼い頃。
故郷の南方地域の島の砂浜で、父親の呪術師と並び座って星空を見上げていた時の思い出に現実逃避した。
仮面をかぶった、呪術師の父親が言った。
「いいか、この世の中は『呪い呪われ』だ、いつ誰かから恨みを受けるかわからないからな……できる限り人から恨みを買わないように注意するんだ」
「うん、わかった……ねぇ、お父さん本人が知らない間に。妬みとかそしみを買って呪われた時はどうすればいいの?」
「そういう時は、呪い返しの秘術だ……呪術師同士の呪い返しの応酬は壮絶だぞ、呪い、呪われ、呪い、呪われ。先に気力が尽きた方の身心に往復して増大してきた呪力が全受けして敗けだ」
「呪いって、スゴいんだねぇ」
「術師の中では最強だ……だけど、これだけは覚えておいた方がいい
『呪いなんて存在しない!』
『自分には呪いなんて効かない!』
『呪いなんて屁でもねぇ!』
と思っている連中には呪いは無力だから……あと、最初から呪われた骨系キャラにも呪いは効かないからね。
骨を腐らせる呪術なんか仕掛けたら、反対に我が身に返ってくる」
呪術師は回想から、現実へともどってきた。
呪術師の脳裏を父親から忠告された言葉が、繰り返し流れる。
(骨には呪いは効かない…… 骨には呪いは効かない……あぁぁ)
動揺した呪術師は、うっかり呪い人形の剣を刺す穴が開いてない部分に、小さな剣をプスッと刺してしまった。
「あっ! しまった!」
呪い人形がビクッと動き、いきなり怒鳴る。
「いてぇじゃねぇか! この野郎!」
怒って呪術師に、飛び蹴りをする呪い人形。
顔を蹴られた呪術師は「げふっ」と発して倒れ、呪術師を蹴った呪い人形はモソモソと呪術師が肩から提げている、編み袋に入っていった。
呪術師が自滅すると、それまでしゃがんでいたた魔法使いが立ち上がって言った。
「全滅かよ」
地面に倒れて薄目を開けて様子を見ていた、魔獣召還師と死霊使いにと、呪い人形に顔を蹴られた呪術師も立ち上がる。
「ここは、一旦退却だな」
「賛成」
「覚えてやがれ」
クケ子たちから逃げ出そうとした、術師軍団の前に、いつの間にか来ていたナニ・ヌネ野が立ち塞がって言った。
「おまえたち、逃げる前にオレの血肉になれ……シドレいいだろう、例のアレ試してみても」
建物の壁に背もたれ立って、紫色のマネキュアが塗られた指爪を眺めながらシドレが言った。
「お目付け役のあたしが見ている時なら、好きにやってもいいドスドス……何かあったら、対処してあげるからドスドス」
「よっしゃ!」
ヌネ野が呪文のように叫ぶ。
「『背脂』!」
術師たちの体から、血肉が光りの粒子となって、ヌネ野の体に流れ込み。
見る間に術師たちの体が乾きスルメのような乾きモノに変わり倒れる。
術師たちの血肉を吸収したヌネ野の体が、肉付きが大変良い体型に変わった。
腹の逆体脂肪率の部分を摘まみながら、満足そうな笑みを浮かべるヌネ野。
「さすが、背脂……パーフェクトボディ」
ちなみに、ヌネ野が元の体型にもどる時の呪文は『湯通し』だった。
空に向かって跳躍したヌネ野が、クケ子目がけて落下する。
「くらぇ! 肉爆弾!」
クケ子たちから、少し離れた位置に落下した肉爆弾の衝撃で、道が陥没した。
悔しそうに舌打ちをするヌネ野。
「チッ、目測を誤ったか」
再び跳躍して、繰り返し落下する肉爆弾。
少しづつ着弾位置が修正されていく。
レミファが言った。
「ヤバいぜら、こいつヤバいヤツぜら!」
肉爆弾にどう対処するか、困惑しているクケ子たちの耳に少し離れた場所から声が聞こえてきた。
「お待たせ、やっと完成した……光沢を出すのに時間がかかっちゃって」
「水の都の民と協力して作った」
声が聞こえてきた方向に目を向けると、そこに湖中人と土壌人……それと土色で光沢のある巨大な球体の物体があった。
三メートルを越える泥団子だった。
「これで、赤いガイコツの救世主を助けます、そうれぇ」
勢いよく転がされた泥団子にぶつかり、メリ込むヌネ野の肉塊。
「んべっ」
泥団子にメリ込んだ、ヌネ野はそのまま転がってどこかに行ってしまった。
少し困ったような表情で、自称魔法少女のシドレが言った。
「えーと、こういう場合の捨てセリフは『覚えてやがれ!』でしたっけドスドス」
クケ子たちに向かって一礼したシドレは、転がる泥団子を追って走り去っていった。
数十分後──魔勇者の娘がいる魔王城に送り返すために平凡な町の民の手によって、木箱に詰められている乾いた術師たちを眺めていた、ヲワカが呟く声が聞こえた。
「今回も魔矢を放って、活躍する場が無かったでありんす」
クケ子たちは、次の目的地に向かって歩き出した。
レザリムス世界の遺跡はどこかプリティ!なに?ぬねの?~おわり~
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