⑥ババアファイナル!〔ラスト〕

 翌日──村の広場でレイ・ナおばあちゃんの、三百歳の誕生日パーティーが開催された。

 飾りつけされた会場を見て目を細めた、レイ・ナおばあちゃんが呟く。

「祝ってくれるのは嬉しいが……ここまで、してもらえると逆に照れるわい」

 レイ・ナおばあちゃんは、若き日に西方の大魔導師と旅をした時の衣服と。その時に使用していた剣と闘拳グラブを膝の上に置いて微笑む。

 レイ・ナおばあちゃんは、剣と拳の『剣士拳闘士』だった。

 飲み食いと軽快な音楽、大道芸で沸き上がる会場。

 各種テントの飲食物ブースからは、美味しそうな匂いが漂ってくる。

 いつの間にかパーティー会場に来ていた人面ケルベロスも、大人しく肉をかじっている。


 クケ子チームと、恐竜娘チームが仲良く飲食をしていると、雰囲気をぶ壊す。腐れリーダーの甲冑騎士の声が会場に響き渡った。

「なに楽しそうにしてやがる! この恐竜小娘どもが!」

 昨日、恐竜娘たちにボッコボッコにされた腐れリーダーたちの、リベンジだった。

「昨日は油断したが、今日はヒーヒー言わせてやるからな! 覚悟しろ!」

 蛮人戦士が小声で騎士に言う。

「おい、赤いガイコツもいるぞ」

「覚悟しろ、尻尾が生えた小娘ども」

「赤いガイコツの傭兵も……」

「あーっ、見えない見えてない。赤いガイコツなんてどこにもいない……弓矢を持ったエルフも、大剣を背負った大男も、とんがり帽子をかぶった魔女っ子も、なーんにも見えていない」

 甲冑騎士が小声で蛮人戦士に囁く。

「空気読め、恐竜娘に敵わなかったオレたちが赤いガイコツに敵うワケないだろう……今日の敵は、恐竜娘だ、赤いガイコツはまた日を改めて作戦を練ってから」


 腐れリーダーの騎士が、会場にいる恐竜娘たちに向かって叫ぶ。

「降参しろ! 降参しないと村の源泉元を止めて、間欠泉が噴き出さないようにするぞ!」

 腐れ騎士の言葉に村人と、レイ・ナおばちゃんの表情が一変する。

「おめぇ、今なんっうた」

 殺気立つ羊角ミノタウロスの村人たちと、レイ・ナおばあちゃん。

 村人の一人が、クケ子たちに囁く。

「ここは、手を出さないでください……恐竜娘と温泉村に売られたケンカですから」

 レイ・ナおばあちゃんが温泉名物の早着替えで、剣士拳闘士の姿になる。

「どれ、久しぶりに暴れるとするかのぅ……はぁぁぁっ」

 闘気がレイ・ナおばあちゃんの全身を包み、曲がっていた腰がベキッベキッと真っ直ぐになる。

 闘気の背後に、若き日の拳・レイ・ナの姿が浮かび上がった。

 挑発するように腐れリーダーたちに向かって手をクイクイする、レイ・ナおばあちゃん。

「かかってこい……腐れリーダーども」


 老婆に向かって剣を抜く甲冑騎士……最低の男だった。

「やっちまぇ!」

 はじまる、大乱闘。

 恐竜娘たちの猛攻。

 ジュラ・光輝の十字ブーメランが、次々と腐れリーダーたちをなぎ倒し。

 加勢する人面ケルベロスも、日頃の鬱憤うっぷんを晴らすように、腐れリーダーたちを相手に大暴れしている。

 羊角ミノタウロスたちも普通に強い。

 やることがない、クケ子たちは離れた場所で飲み食いして乱闘を見学していた。


 やられっぱなしの甲冑騎士が、仲間に号令をあける。

「亀甲の陣、横一列の陣形だ! 急げ!」

 リーダーたちが横一列に並ぶと、腕を組んでラインダンスをしながら迫ってきた。

「どうだ、これが今は亡き亀甲さまから伝授された、無敵の陣形だ! 攻撃できないだろう」

 甲冑騎士の根拠がない無敵の陣形に、どう対応したらいいのか困る温泉村の住人と恐竜娘たち。

 片足を交互に上げながら踊り迫ってくる、リーダーたちに戸惑っていると。

 レイ・ナおばあちゃんが一歩前に進み出てきて言った。

「ふんっ、なんじゃそのヘタレな陣形は……久しぶりに、必殺を出してみるかのぅ」

 逆手に剣を持ったレイ・ナおばあちゃんが叫ぶ。

「ババアファイナル!」

 横一閃、剣から放った衝撃波が腐れリーダーたちを吹き飛ばす。

 空中で悲鳴を発するリーダーたち。

「ぐわぁぁぁ!」

「ババアが必殺技を!?」

 続いてレイ・ナおばあちゃんは、大地に向かって拳を打ちつける。

「東方仏魂拳! ババア念仏撃! 地獄に落ちろ!」

 大地を走る衝撃波が、残っていたリーダーたちを一掃する。

「ぐわぁぁぁ!」

「ババア強えぇ!」


 光輝がひいひい祖母の身を案じて言った。

「おばあちゃん、高齢者がファイナルとか地獄で念仏って縁起が悪いイメージしかないからやめて」

 腐れリーダーたちは、ヒーヒー言いながら。

「覚えてやがれ、こんな村二度と来ないからな!」

 そんな捨てセリフを残して逃げ去って行った。

 勝利した村人たちの歓声の中、クケ子が呟く声が聞こえた。

「主役なのに今回は、まったく出番が無かった」

「たまには、こういう時もある……ぜら」

「ありんす」

「ござる」


 誕生日パーティーも終わり、片付けが進む中でクケ子たちを見送る、レイ・ナおばあちゃんが言った。

「旅の安全を祈っておるぞ、必ず魔勇者の娘を倒してくだされ」

 恐竜娘たちに寄り添われたジュラ・光輝が、ヤザと握手する。

「道中お気をつけて、第二新大陸に来た時には。会いに来てください……歓迎します」

 ヤザは、もう二度と会うこともないと思われる、第二新大陸の住人の言葉にうなづく。


 そして、温泉村をあとにしたクケ子たちの、異世界大陸漫遊は続く。

 


雪猿人も風呂に入る温泉村は大騒ぎ!~おわり~

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