赤いガイコツ姉ちゃん、アチの世界に帰郷する〔弟目線〕
①赤いガイコツ姉ちゃん自宅にもどる
異世界に召喚されて、傭兵をやっていた
生きた赤いガイコツの姿になって。
「よっ
いきなり玄関のドアを開けて入ってきたガイコツの姉は。防具を着て刀剣を背負ったガイコツの姿で、玄関でブーツを脱いでいる。
オレは、どう反応していいのかわからずに……その場で固まる。
ブーツを脱いだ彩夏姉ちゃんは、ガシャガシャと防具や刀剣の金属が触れ合う音をさせながら、廊下を進み、スレ違う時にオレに不気味なキーホルダーを手渡した。
「はい、これ異世界のお土産のキーホルダー……ふぅ、汗でベタベタ。ちょっとシャワー浴びるよ」
そう言ってガイコツの姉ちゃんは、風呂場へと入っていった。
(シャワーを浴びるガイコツって? なに?)
数分後に風呂場から出てきたガイコツの彩夏姉ちゃんは、バスタオルで濡れた頭蓋骨を拭きながら。
「ふーっ、スッキリした……二階の自分の部屋で仮眠しているから、夕食の時間になったら起こして」
そう言い残して、姉ちゃんはガイコツの裸(?)のまま、階段を上がって自分の部屋に入った。
オレは廊下で頭を抱える。
(赤い白骨化した姉と、この先どう接していけばいいんだ)
夕食の時間になると、Tシャツに短パン姿のドクロ顔をした彩夏姉ちゃんが、一階の食堂に下りてきた。
「わぁ、家のカレーなんて久しぶり。異世界ではロクな食事ができなかったから」
オレとガイコツ姉ちゃん、母さんもと父さんの四人が食卓を囲んで、久しぶりの家族団らんがはじまった。
母さんが遠慮しがちに、カレーライスの皿を姉ちゃんの前に無言で置く。
やっぱり、母さんも帰ってきた娘がいきなりガイコツに変わっていた状況に、どう対処していいのかわからない様子だった。
「いただきまーす」
姉ちゃんが、カレーをすくったスプーンを口に運ぶ。口に入れたカレーライスは、こぼれてTシャツに黄色いシミを作る。
「やだぁ、カレーのシミになっちゃう……あたしってドジ」
父さんが一回咳払いをしてから、当たり障りのない口調で彩夏姉ちゃんに質問する。
「あのぅ、彩夏……ちょっと見ない間に、ずいぶんと変わったが……何があったのか話してくれないかな」
彩夏姉ちゃんは、濡らしたタオルで衣服についた、カレーのシミを拭きながら言った。
「そんなにたいしたコトじゃないんだけれど、異世界に傭兵として召喚されて、魔勇者と戦ったんだけれど……」
「魔勇者?」
「魔王を倒した後の勇者が、調子づいて人々を苦しめる邪悪な勇者に変貌したのが魔勇者……変にプライドが高いから扱いに困る。その魔勇者を仲間たちと協力して倒した時に【生きているガイコツ】の姿に……別にこの白骨化した姿でも、不便していないから心配しないで」
「そ、そうか……彩夏も大変だな」
オレたち家族は、それ以上、彩夏姉ちゃんに詮索することなく。通夜のような沈んだ雰囲気の夕食を続けた。
翌日から、家でゴロゴロしている彩夏姉ちゃんの姿を見るコトが多くなった。
オレが学校から帰ってくると、洋間のソファの上に骨格標本化した姉ちゃんが寝そべって、スマホをいじっていた。
「姉ちゃん……いくら家の中だからからって、リラックスしすぎだよ……せめて服くらい着てよ」
「別にいいじゃない……見えているの骨だけなんだから、あちゃ……このバイトも不採用か、なかなかガイコツの女を雇ってくれる所ないね」
「アルバイトを探しているの?」
「こっちの世界では、若い娘が家でゴロゴロしていると世間の目が厳しいからね──『○○さんところの娘さん、異世界から赤い白骨化して家に帰ってきたんですって』とか噂されるから。
世間の目は冷たくて骨身に染みる」
オレは彩夏姉ちゃんに聞いてみた。
「どんなところにネット面接したの?」
「一番最初は土建会社の事務員を募集していたから──『粉骨砕身で頑張ります』って言ったら、『あなた、最初から骨だから骨を砕いて粉にしたら無くなっちゃうから』って断られた」
「他には?」
「ラーメン屋で接客募集していたから『寸胴で煮込めばいいダシが出ますよ』ってアピールしたら『うちは鳥ガラでスープをとっているから、お客に人骨スープ出すわけには』って丁寧に断られた」
「ガイコツが働くのって大変だね」
「酷い会社の面接だと、ガイコツを雇いたくなくて『どこの馬の骨だかわからない人は』って言われたから少しカチンときて。
『馬の骨じゃありません、人間の骨です!』って言ってやった。これじゃあ……骨折り損だよ」
彩夏姉ちゃんが、嘆いていると洋間の空間に魔法円が現れ、円の中から魔女のトンガリ帽子を被った頭蓋骨が一個、転がり出てきた。
頭蓋骨が少女声でしゃべった。
「彩夏どの探しましたぞ」
「あら、魔女っ子『レミファ』久しぶり。拓実に紹介するね……あたしと一緒に魔勇者を倒した、チームの一人。魔女っ子『レミファ』……可愛い子でしょう」
彩夏姉ちゃんの問いに、困惑するオレ。
「可愛いと聞かれても……なんて答えたらいいのか」
彩夏が姉ちゃんが、魔女っ子のドクロに言った。
「レミファ……あなたも白骨化していたの?」
「あの時、爆発で体がバラバラに四方に吹っ飛んで、頭は野ざらしのドクロに……少し待ってください今、複顔魔法を自分にかけますから」
魔女っ子の頭蓋骨が、呪文を唱えると、肉づけされて美少女の生首に変わった。
生きている、美少女の生首が言った。
「このまま、リビングにインテリアオブジェとして首を飾っても、見栄えしますよ」
「異界大陸国に何かあったの? あなたが、ワザワザ傭兵のあたしを探しに来るなんて?」
「そうだった……彩夏どの、異界にまた危機が迫っております。魔勇者の娘が、異界支配に乗り出しました」
「あの、倒した魔勇者に娘がいたの? それは、大変……すぐに異界大陸国レザリムスに行きましょう」
十数分後──防具を装着して剣を背中に担いだ、ガイコツ傭兵の彩夏姉ちゃんは、魔女っ子の生首を脇に抱えて。
洋間に開いた魔法円に向かいながらオレに言った。
「それじゃあ、ちょっと行ってくる……お母さんには夕食は要らないって伝えておいて」
そう言い残して、ガイコツ傭兵の姉ちゃんは、レザなんとかとか言う異世界に再度旅立っていった。
赤いガイコツ姉ちゃんの帰郷~おわり~
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