第263話 夜明け 3
ちなみに、あとでそれを聞いた皇太后は、騒ぎを叱るどころか、「わたくしもそうできればよかったのに」と、大はしゃぎで、呆れた顔の萩にそう言いながら、涙をこぼして笑い転げていた。
そして我に返って反省した朱雀帝は、
やることさえ、ちゃんとやってくれれば、後宮の事情が多少どうであろうが、彼らには文句はないのである。黙って様子を見ていた関白も、内心では大いに安堵していた。有能過ぎるのも扱いに困るが、無能過ぎるのは、もうこりごりであった。
しかしながら
「それがどうしました? 悩むことなんてないじゃない! それは姫宮の強みではありませぬか。それに姉君は絵が、と――っても下手ですから、ちょっと勝っていますよ? この間、絵合わせのあと、似顔絵を描いていただいたでしょ? ほら、顔がそら豆みたいな、変な似顔絵!」
「そんな! 葵の上の絵は……まあ、その、なんというか個性的で……わたくしの顔も……そら豆でしたけれど……」
「わたくしも帝のことは大好きだから、帝がつい甘くなってしまう皇太后に瓜ふたつの顔で、よかったとは思っているけれど……帝とも似ているのが、とっても気になるのよね。身代わりができそうなくらい似ているのよね……男女の関係になると、それはやっぱり引くわよね……」
「あの、
「まあ、わたくしたちは摂関家の姫君と言う立場で、大好きな帝に、いずれは中宮にも立てる立場の女御として入内。これだけでも十分幸せではないかしら? あ、わたくしと帝が似ているのは、そんなに気を遣わなくていいわよ。もうすぐ届く新作の化粧品で、ごまかす予定だから!」
「わたくしも、
「
「どうかしら?」
「
慌てている側にいた女房の姿に、
殺生事や武道を、やたらと悪しざまに、ののしっていた官僧の権力が消え、
貴族の間では、男君だけではなく、女君にとっても、武芸はじょじょに詩歌や音曲と同じように、選択肢のひとつとなっていったのである。
帝が奨励されるので、大学寮では武道をなにかしら修めるのが、卒業の必須条件となっていたし、大貴族の子弟たちも、自分のやかたで稽古に励む。
宮中では、帝や女御がご覧になる演武大会が開かれるようになり、歌合せと同じように、道場も貴族たちの、重要な社交場のひとつ、そんな時代の空気が生まれていた。
姫君も自分のやかたに、女子大学寮や女武官を引退した者を講師に呼んで、同じ趣味の親戚筋の姫君や姉妹と武芸にいそしみ、交流することも珍しくなくなる。
それは
「馬に乗ってみる?」
「そ、それは……遠慮しておきます」
「
「わたくしが古風と言うより、
「今日もお元気そうで、なによりですわね……」
帝が止めぬどころか、時折は一緒になって、乗馬を楽しまれているので、周囲はそれ以外に言うことはなかった。
また、
その流れで、元のお話の『
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