第262話 夜明け 2
すっかり健康を取り戻し、幼さが抜けて、明るい光の中でくっきりと浮かんだ、春の化身のように、
眼尻に僅かに入っている朱色の差し色が、ことのほか瞳を美しく見せ、いままでになかったその新しい化粧方を知った女官や女房に収まらず、あとで伝え聞いた姫君たちは、こぞって真似をしたがったが、あとから
帝が以前、
腰の
一連の儀式が終わると慶事を祝い、場所を後宮に移すと、そのまま花の宴がはじまった。
早速、歌合せが始まり、特に素晴らしいとされた歌の詠み人には、帝から馬や絹地などが下賜される。金と銀の花飾りを髪に差した童たちが、桜の枝を持って舞を披露したあと、
それは、舞の『ま』の字も分からない葵の上も、思わず食い入るように見ていた素晴らしい演目で、『公務で御簾の外に出られる立場でよかった!!』そんな風に思いながら、無意識に両手を合わせて胸元に当て、感動のため息をつく彼女の仕草も、これまた御簾内ではあるが、女君の『感動を表す素敵仕草』と、彼女が知らぬうちにあいなる。
その後の和琴、琵琶、
「お疲れ様!!」
小さな声で葵の上に、そう言ったのは、新しくなった『
「???」
紫苑は声の主を探して、きょろきょろしていた。霊に鈍感な彼女は、いまだに
翌日から葵の上は、再び“馬車馬のように働く”そんな状況に陥っていたが、新しい
それから時を置かず、摂関家からは、ふたりの姫君も、裳着を済ませて、女御として同時に入内される。そんな慶事ばかりが続いたが、なんと自制心の塊、朱雀帝が少し事件を引き起こす。
それは裳着を済ませ、母宮である
姫宮が、
裳着前に見ていた
そんな風に、
うしろには困った顔で、
『母君がなぜ? すっかり若返って……新しい化粧とやらの効果か?』
「帝が
そう言うや否や、帝に檜扇をビシリと投げつけたのだ。
「あいたっ!」
「帝!」
「いや、大丈夫だ! わ、わたしが悪かった。
一見、
「……お分かり頂けて、なによりですわ」
つき従っていた官吏や女房たちは、大層驚いていたが、ありし日の母君の勢いと、先帝である父だった男の不始末を、少しぼんやりしていた頭の中に、クッキリと思い出した帝は、慌ててその場を退散し、ご自分のせいで、内裏に迷惑をかけている自覚のあった
「言う時は、びしっと言わなきゃ駄目よ! 帝が道を踏み外そうとしているのを、お諫めするのも
「そうよそうよ!! 誰がなんと言っても、
内親王方は、摂関家の出自ではない母君が、先帝に物申すことができぬ立場であったことを思い出し、悔し気な顔で言いつのる。その横で
「
「そうですね……」
幼馴染であり、もはや本当の姉妹のように仲の良い、でも気の強過ぎる三人に囲まれて、
その頃、再び公務に戻っていた葵の上は、内心で朱雀帝が朱雀部長だと感づいてから、少しドキドキしていたのだが、この騒動で、とにかくいまの世界では、なんの縁もなさそうだと、少しホッとして、前世? のお詫びにと、いままで以上に真面目に、そして至極平和に働いていた。
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