第246話 入れ替わる光と影 3
あれから五年の間に、少し事情の分かった
彼女には、なぜわたしが襲われたのかは、全然分かっていなかったけれど。
あの日、
無事に助け出された母君は、もちろん大慌てで、わたしを救うために、“六”に愛娘の『
が、当然ながら中味が『
それからの五年、
結果はどうあれ、元内親王である母君を、命の危険にさらしたのだ。出家と、ごく内密な謹慎で済んでいるのは、十分な配慮らしかった。ただ妻を愛し、子を愛した優しい人だったのに、父君はその優しさと心の弱さにつけ込まれ、当主としての道を踏み外し、門閥を率いる資格はないと、御祖父君に引導を渡されていたのである。
平凡な家庭であれば、ただの子煩悩な愛妻家だったのに……そんな風に父君のことを、ぼんやりと考えていると、清々しいほど、空気を読まない
「いやー、気がついたわたしを、みんなでもっと褒めたたえて欲しいね!! この時代、女子に苗字ないから、誰も気づかなかったの! 盲点!! 超盲点!! 『あ』から順番に名前をずらっと並べてみたりもしてたんだよ!」
「ありがとう……大変だったんだ」
そして昨日の夜、わたしの命を考えればもはやこれまでと、最終決断をした
ここにタイムスリップする前の『元カレ』だった『馬鹿ヤロー』とは大違いだと、少なからず感動していたから。
***
〈 昨日の夜の出来事 〉
「あの――こんばんは……」
「ああ、桜姫か。お腹空いたのか?」
寂し気な顔のイケメンがそう言いながら、わたしに横にあった干し柿をくれる。まあ、あるならあるで、嬉しいけど。
「いや、そうじゃなくて、お姫様どう?」
「心配してくれるのか……
「
この世の者ならぬ存在に気を許したのか、彼は
『じゃあ、いまいる世界で耳にする名前って、本名じゃなくて、アカウントネームかなにかなの!? じゃあ本名がパスワードか! それでわたしに名前も聞かずに、とりあえずな名前がつけられたのか!』なんて驚いていたのである。
そして知った。お姫様が九つの時に命を落とすところを、薬師如来に救われたこと。その日以来、何者かに命を狙われながらも、御仏の具現と言われるほどに、まるで『
「九つ……って、う――ん、確かわたしが槍になったころか……ひょっとして、あのお姫様もどこからかタイムスリップ……あれ? どっかで見た顔? いや、あんな美少女の知り合い、わたしにはいない……」
目を細めて、葵の上の顔を、じっくり思い出してみる。
『ちょっとまって! あの美少女、十倍くらい水で薄めて、イケメンよりに、ぐっと持って行けば……あれ!?』
「あ――――!!」
手のひらから飛び降りた。
「桜姫!? どこへゆく!?」
「お姫様のところ! たぶんわたしが助けられるから、早く“六”を連れてきて!」
干し柿を放り出した小さなお姫様は、葵の上の寝所に走ってゆき、半信半疑な顔の
「なに? 呑札くらい、わたしにだって作れるし! “弐”が内職してるのも、手伝ってたんだから!」
「あれだけ叱責したのに、アイツは、まだそんなことをしているのか……」
“弐”は副業を禁止されているにも関わらず、桜姫のせいで食べる物が、なにもないなどと言って、叱責を受けたにも関わらず、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます