第205話 現代奇譚/クロスオーバーする青春/2
もう、お好み焼きでお腹いっぱいだし、(結局、お好み焼き屋さんは帰り際に寄った。わたしは一枚、
そう勝手に決めた葵が、自分の家より広い
デザートにアイスでもたーべよ! そう言って冷凍庫から業務用のハーゲンダッツ(なんと2リットル!)を持ち出して、近くのソファに腰掛け、大きなカレースプーンでよそって食べながら、
「絶対に頭おかしい! あ、ごめん、人の身内に!」
「いい、当たってるから……」
小さかった
結局、そのあと無事に退院して、自分には心を入れ替えたと、殊勝な態度を見せてた、相変わらずの父親に、あきれ果てた花音ちゃんのお母さんも、そのまま単身赴任先に引っ越したそうだ。
『この子は自力で逃げ出したラプンツェル!』
葵はそんな感想を抱き、改めて
「もう歳だと思って、つい心配して顔を出したのが失敗だった……」
「なんか強烈な人やね……」
「うん……」
「あれは、長生きするから、しばらくほっておいても大丈夫だよ……」
「うん。あ、アイス食べる?」
「今日の栄養バランスはもう完璧だから要らない……」
「そのストイックさは、いつも尊敬する!!」
「そーかい、ありがとーね……」
そのあとお風呂に入って、ふたりで、きゃわきゃわと、なんでもないバカな話をして、わたしは、「本当に色々とよく頑張ったね……」そう言いながら、
貸してもらったパジャマは、フカフカで柔らかくて、夢見たいな肌触りで、幸せ々々と思っていたら、知らない間にふたりで、シングルベッドで、グーグー寝てて、朝起きたら床の上だった……。
顔を洗おうと洗面所に行くと、
「わたしもそのストイックさは尊敬するよ……」
葵は顔を洗ってからそう言うと、近くのコンビニに行って買ってきた、無塩のトマトジュースを飲み干していた。
後日、
しかし彼はそれからというもの、
この
そんなある日、
「うわさを広げたんは、わたしだけやないです。それにうちは、そないなことで潰れる店やあらしません。ちゃんとした家のお嬢さんに、見境なく手を出して、ろくな後始末もできんあのアホぼんを、まだこれ以上かばうようやったら、十代続いたあの家ももうお終い、ここに通い続けることなんでできません。それに本当の跡継ぎは……あの男やあらしません……
「お前……父親に向かって、
若女将の
「
「言うことが難し過ぎて、なんや分からへん時もありますけど、経営の難しい資格も持ってはるし、もう三ケ国語はペラペラやて、
「お茶にお花に日本舞踊、どの習い事の先生も、なんでこの子がうちの跡取りやないんやと、おっしゃってくれてはるし、ほんま凄いお嬢さんですわ」
「どこから婿をもらうか、いまから
彼らは口々に自慢のお嬢さんで、
***
〈 その翌日 〉
一方、葵ちゃんが、もてあそばれて捨てられたと、とんでもない勘違いした合氣道部の部員たちは、「うわさを広げたんは、わたしだけやないです」そんな
体育会に所属しているクラブを中心に、ありとあらゆる大学に、大々的に彼の正体を、尾ひれをつけて、彼の悪行をバラしにバラしたのである。
行動範囲と活動範囲の広い彼らの間と、特に運動部でもないその知り合いや友達の間で、うわさはどんどん広がっていたが、あとでそのことを知った葵が、「それは
問い詰められた葵は、当然、黙っていようと思っていたのに、ついつい誘導尋問に引っかかり、最終的に口を滑らせて、「被害者は、隣の少林寺拳法部の
「困るなあ……あの子はうちの大学が、世界で活躍できる子だと期待して、何年も前から“三顧の礼”を持ってして、大変な争奪戦の末に、うちの大学に入学してもらった逸材なんだから……」
彼はそう言ってから紅茶を飲み干すと、高級そうなティーカップをテーブルに置き、ふかふかのソファから優雅な所作で立ち上がる。
「あと誰だったかな? ああ、
副部長がさっと耳に入れた葵の名前を口にして、少し首をかしげ、そんなことを言いながら。
「お詫びと言えば、虎屋の
「…………」
確かに虎屋の羊羹は、謝罪の鉄板商品だが、女子大生にそれはないだろう……。
そう思い、副部長の言葉を、綺麗に無視した上品な部長さんは、オーダーメイドのスーツの首元で、少し緩んでいたネクタイを、さりげなくきちんと直し、広い廊下に副部長以下、何十人もの部員が整列するのを待って、開けたドアを押さえていた一回生に、にっこりとほほえんでから、和歌サークルの部室に向かって、一同全員を引き連れ、廊下を堂々と歩き出す。
「やっぱりかっこいいよね――、超イケメン!」
「うちにも半分、いや、四分の一でもいいから、あんなイケメンいれば、もう少しやる気が出るんですけど――!」
「きゃ――!!」
両隣の部室から顔を出している、胴着姿の別の部活の女子部員たちは、平たい目であきれた様子で自分たちを見ている、自分たちのところの男子たちを完全に無視して、時間が立つのも忘れて、少林寺の部長さんの行列を見送っていた。
彼の名は、“
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