第200話 収まらぬ火の粉 7
女御は無言のまま目を見開いた。
なんと関白は大火の日に、
しかしながら次期東宮や、自分たち貴族を排除しようと企み、国を混乱に陥れようとする北山の
きっと、その頃合いを見計らって、なにかしらの算段がある関白が、
「
右大臣は耳元で、小さくそうささやくと、
それから御簾の向こうで、こちらを眇めた視線で見ている
そうして、葵の上たちが到着するまでの間、
女房たちは、外にふたりの声が、なるべく聞こえぬように、素早く何枚も屏風を立て、待機している僧侶の元には、右大臣より最上級のもてなしをとのことですと言い、禁じられているはずの酒や肴をふるまい、楽師を何名かやって音曲を奏でさせた。
呪法の腕は確かでも、常日頃は不自由な暮らしをしている彼らには、それはもう夢のような出来事であった。
大いに喜んでいる彼らに萩は、「周囲の騒動も里内裏の設えを整えるために、まだなにかと立て込んでおり、お目汚しですので」そう断ってから、素早く指示を出して、四方を見えぬように、こちらも屏風で視界を塞ぐ。
日頃、貴族のやかたになど、出入りできぬ彼らは、萩の言い訳に疑問も持たず、出された酒や肴に舌鼓を打っていた。煤竹法師以外は。
その頃、慇懃無礼な
しばらくの間は、
女などという、悟りを開くこともままならぬ穢れた存在は、
しかし、たしかに彼の、そういった女を酷く浅く、低く見る考えが程度の差はあれ、広く見受けられる時代ではあったが、同時に高貴な身分に生まれた女は、それ相応に前世の徳を積んだ存在だというのも、これまた世の常識であった。そこから見れば、次期帝の東宮の母といえば、これはもう別格の存在である。
が、彼にとっては東宮の母とはいえ、
長い時が過ぎて、すっかり喉が枯れた様子の北山の
もちろん
しつけのなっていない女房のことを
御簾の内側にいる
「あらあら、女房がとんだ粗相を……そのようないで立ちで、帝に拝謁するなど、とんだ無礼、今日は帰った方が……よいのう……」
「わざと命じたな……!!」
「さすがですわね……」
「ほほほほ、東宮の剣術の稽古を何度も見ておりましたら、自然と体が動きましたのよ?」
『
それはあとからその大活躍? を聞いて、目を丸くしていた葵の上の言葉であり、感想であった。
見取り稽古とは、他人の稽古や試合を見て学ぶことであり、この時代で、しかもいわゆる『姫君』カテゴリーの頂点で育ったはずの
しかし、幼い頃からそんな
数刻のあと、目を覚ました北山の
ほんの数滴、茶がこぼれただけの袈裟は、布で叩いて乾かして、綺麗に着せておいたので、彼は首を傾げながらも、まさか女御が檜扇で襲いかかるなど、あり得ないので、悪夢を見たと納得するしかなかった。
それからなぜか、酷く痛む頭をさすりながら、さすがに恐縮すると、長々と謝罪の言葉を連ねたが、結局は
『身分も知恵も足りないくせに、うちの
それが
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