第191話 大火のあとの変 3
葵の上の提案を聞いた
「兄君、朝餉はよろしいのですか?」
「大丈夫! あまりゆっくりしていると、父君のやかたの門が、竹で封鎖されるかもしれない。
そう言って
なお、ちらりと聞いてみた、夕顔を自分の側仕えの女房に欲しいという申し出は、ご機嫌の悪い母君に瓜ふたつ、そんな冷たい笑顔を浮かべた葵の上に、にべもなく却下されたが、少しだけ疚しいことを考えていたので、いまはそれどころではないと、心の中でひとり反省をしていた。
*
〈 関白のやかた 〉
息を切らせてやってきた孫息子に、その話を聞いた関白は、心配そうに自分を見ている
いきなりの里内裏への決定で、せせこましいやかたの中で、右往左往しているであろう右大臣には、やらせることも多い上に、恩も売れると、許可を出すことにした。葵の上が踏んだ通り、彼は情よりも実利と、体面を取ったのである。
自分の答えに大いに安堵した様子の
「葵の上は息災であったか?」
「ああ、髪が大変なことになっていましたが、母君を必ずや無事に取り返すと、大いに息巻いて……あ、いえ、大いに力を落としておりました!! とても御祖父君にも申し訳なく思っていますと!! ええ、それはもう!!」
「そうか……」
関白は
牛車がなくなっていたことから、大宮のことを葵の上に漏らしたのは、あの紫苑とかいう命婦であろうと、容易に想像していたが、夫である
「しかし、この対価には、それなりに働いてもらわねばならぬ……」
そう呟いた関白は文机に向かい、みずから右大臣充てに、一筆したためて文使いを走らせる。
「四の君にも、あとで文を忘れるでないぞ」
「はっ!」
二年前の婚約の儀で、顔を会せてはいるが、まだまだおぼつかぬ幼子の印象しか持っていなかった東宮は、母君とよく似た『
「……少し見ない間に、すっかり姫君らしくおなりですね」
時々、後宮で顔を会せていた
葵の上と結ばれることはないのは、この先ずっと胸の痛みとして抱えてゆくのだろうが、それでもまっすぐに
この縁の深い姫君たちが、未来の東宮妃として入内された時は、あの方の化身として大切に扱わねばならぬと心に思い、そっとふたりの小さな頭を優しくなぜていた。
それから東宮は、つかの間の休息とでもいうように、あどけないご様子で、無邪気にたわいもない話をしたり、雛遊びをするふたりの相手をしていた。
その和やかな光景を目にしていた
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