第180話 執着 4
「たよりなさ過ぎるのもいけないが、教育がゆき届き過ぎた女もいけない」「少し別の女君と情を交わせば嫉妬する女は、うっとうしくて見苦しい」「いくら美しくても、軽々しき女も……」
ふたりは面白おかし気に、様々な女君を上げつらったりしていたが、結局のところ、本当の上流の姫君というものには、いまのところ、お目通りがかなったこともないので、最後には言葉が過ぎましたと笑って言うのに、光る君は
「当たらずも遠からず、そんな風に思うね」
周囲の女房たちは、光る君が、誰を指しているのかピンときて、クスクスと笑っていた。
光る君は、菓子を食べながら、あの方は美しいお顔以外は、すべてに秀で過ぎて、逆に情緒も趣もない、実は中身のない方だったと思う。
しかしながら今後、右大臣を外戚に持つ第一皇子、朱雀の君が帝となり、彼の御代となれば、現実問題として、自分と
第一皇子が帝となれば、たとえ自分が親王のままで、なんとか
だが臣下に降りて、お飾りの妻として、あの
「“摂関家”……か……」
これ以上のうしろ盾があろうか? 母君の生まれ変わりのような
少ししてから、
「いくら気が利くとはいえ、
彼は皇子の身を大層案じる……そんな様子でそう言った。それでも
「
目の前の皇子は、誰が見ても尊く美しい方であると、彼は心からそう思っていたが、実のところ、初めてきたこの素晴らしい二条院に圧倒された彼は、身分的にはやや不足はあるが、
「その通りだと思います。早くに母宮を亡くされたお立場である上に、一目見るだけで、ほほえまずにはいられない……このように美しくも尊い皇子を、誰が邪険にできましょう……」
似たような下心を、
光る君は、自分の眠る支度をはじめた女房たちに隠れて、
内裏が燃えたことで、大きな衝撃を受けていた光る君であったが、元来の性格が目覚めたのか、そんなことは下々が、なんとかすべきものと忘れることにして、眠るご用意を……そう言う女房に、うながされるままに、着替えを済ませると、くつろいだ姿で庭をながめる。
母君と一緒に帰ったあの日、廃屋のように感じていたこのやかたは、いまでは後宮の殿舎に劣らぬほどに、美しくよみがえり、庭に敷き詰められている白い小石も、まるで小さな白い玉のように、月明りに輝いている。
遠くに見える池に浮かぶ月影を、うっとりとながめながら、
「あんなつまらない姫君に、
「
「こんなに顔色が悪くなって……かわいそうに……」
彼が意識のない妹君を、そっと抱き上げて薬湯を飲ませると、彼女はうっすらと目を開ける。
「……兄君」
「少し熱が出ている。しばらく起きてはいけないよ……」
彼は近くにあった文机で、なにか書き物をしてから、年老いた女房を呼び、妹君から目を離さぬようにと言いつけ、姿を消した。
「早く誰かが見つけてくれるとよいね……」
彼は、誰に聞かせるでもなくそう呟くと、自分の曹司に戻り、周りをうろつく
その少しあと、光る君に
さて、
やがて長い話し合いの末、クジを引き当てた女房が、嬉し気な様子で、化粧を直してから、さも困った顔で東の対に顔を出し、妹君の側にいた年老いた女房に「実は
そのあとしばらくして、いつもと変わらぬ様子ながら、どこか不機嫌そうな
そんなこんなで、大宮は今夜のところは、ひとまずご無事であり、二条院では先に帰ったふたりも含めて、誰も幸せにならない夜が過ぎていたが、このやかたの
*
〈 関白のやかた 〉
「…………」
『変な夢を見た……やれやれ、ホント、
光る君が小さな
「母君……?」
葵の上はそう言ったが、彼女の手を握っていたのは、母君ではなく
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