第178話 執着 2
「
「いいえ、実を言いますと、このやかたに呼ばれたのは、はじめてでございます。彼は自分の身分にあった、控えめな人物でございますから」
「わたくしも姉がよく薬を頼んでいるので、懇意にはしておりますが、病弱な妹君には、静かな環境がなによりも大切と、いくら頼んでも、いままで一度も呼んでもらったことはございません」
皇子の問いに、
いつもは、彼が知っているような話は、とうに知っている、年かさの官吏たちに囲まれ、内裏では小さくなっているので、そんな言葉に興味津々なご様子の皇子の反応に、彼は大いに気をよくして、せっかくの機会だからと、
そして横に座っている
このふたりの様子から分かるように、大方は関白に対する恐怖からとはいえ、逼迫する財政に直面し、復活した彼の元、真剣に国政にかかわっている高位の公卿たちが、絞り出すだけの知恵を絞り、
名門の子弟とはいえ、跡継ぎにもなれそうになく、これといった出世の見込みも少ない
さて、先ほどその場を下がったうわさの主、
「助かったよ、あのような席は苦手でね……」
「いえ、ご迷惑かと存じましたが、お役に立てて幸いです」
「遅くまで引き留めて悪かったね、粗末なものだが、ここに御弁当があるから持って帰ってくれたまえ。今夜は
「これはこれは、ありがとうございます!!」
官吏は嬉しそうな顔で御弁当を受け取り、内裏に帰る道すがら、ちらりと見かけた
やっとひとりになれた
上に乗っていた薬草を取り出し、眠ったままの大宮の顔に、曹司から持ち出したすり鉢から、なにかの透明な汁を注意深く目元に塗ってから、軽々と抱き上げて、再び曹司に戻った。
彼は中にある隠し扉を潜ると、広々とした、しかし、とても寒々とした空間に、ポツンと置いてある大きな石の台に、大宮を優しく横たえる。
ふと昔、幼い妹君にせがまれて、何度も読んでいた絵物語を思い出し、少し考えてから絵物語の真似をして、彼女を強く抱きしめてみた。抱きしめた途端、薬草とは違うなにか彼女から漂う薫りに、うっとりとして、大きく息を吸い込んでから目を閉じる。
『ああこれは
御仏の悟りを意味する言葉から紡がれた……そんなふうに言われる
彼はそれから大宮の髪をひと房持ち上げて、ほんの少し切り取り、大切そうに料紙に包んでから、持ち帰った“離縁状”と一緒に油紙に包むと、また懐にしまう。名残惜し気に大宮の頬を撫ぜてから、再び空間につながる扉を閉め、隠し扉と曹司に施錠をして、疲れた横顔が心配だった、妹君の様子を見に行くことにした。
一方の光る君は、
*
〈 後書き 〉
※
『小話/ふたりのデート/中務卿&葵の君11歳』
葵の君が住み込み? なので、ごくたまに中務卿の館で、おうちデート? おうちdeプチ合宿? しているふたり。
葵「……もうそろそろ育ちざかりも終わったと思うのですけれど?」けっこう身長伸びた十一歳の終わりごろ。
中「……!」慌てて自分の側から離している。
道場の隅っこで葵の君から、軽くキスしてみたら、また急に少しだけ大きくなったのでした。両想いなのに、平安時代的にはもう夫婦なのに、成長期が終わらないと進展しないふたりでした。笑。
弐「めっちゃ背は伸びたのにな!」式神を飛ばしている。
六「のぞき見するな!」
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