第162話 別れの時 2
〈
「君が言っていた“やんごとなき御方”は、
夕刻、やかたに帰った
「話は早いようですな。その件でお願いに上がりました」
「どんな要件だろう? いやまさか
「貴方様の妹君も、その
法師はそう言い返したが、料紙になにやら書き込みながら、
「わたしの妹は君の
彼はそう言うと、くっと笑った。
「それがお分かりならば、少し融通をして下さらぬか?
「新鮮な人骨で、しかも貴族の女君の骨ねぇ……」
「お断りだ。いま再び、
「
「何度も言わせるな、自分が興味を抱いていることならばともかく、なぜ、
今現在の京の町は治安が大幅に強化された上、つい先ごろ貴族のやかたへ押し込み強盗の未遂があったため、別宅に住む妻の元に通う貴族たちの夜歩きまで、検非違使に見とがめられ、事情を確かめられるほどだ。
「妹君が
「法師殿、徳の高いそなたにそのようなことはできまいて。だからこそ、なんの生活の心配もないのに、最近は餓鬼のように、骨を求めて
「なぜそれを?!」
目の前の、冷静過ぎる“
彼女は
「よいではないか、別に法師殿の御身内でもなし、“
「あいだてなし……」
「それしか言えぬのか? ああ、しかし、君は友人ではあるし、
「この箱を持って帰りたまえ、火が入っていないから、まだ役に立つかもしれぬよ?」
「……ご厚意を感謝いたします」
「さてさて、あの法師がどうにかなった時のことを考えて、
法師が帰ったあと、
不安定な“試作品”の
ふと妹君の顔が見たくなり、曹司を出て妹君の寝ている対屋に足を運ぶ。青白い顔だが健やかな寝息を聞いて、彼は少しだけほほえんで、妹君の額にそっと触れると、うっすらと目が開く。
「まあ……どうかなさいましたか?」
「少し心配になって、お顔を見にきました。起こしてしまってすまないね」
「そんなこと……本当に最近、どうしたのかと思うくらい元気ですの」
法師の“
彼は妹君を布団の中に入れ、薄くて軽い夜具(絹で作ったタオルケットのような物)をかけてから再び自分の曹司に戻り、ことの成りゆきを少し楽しみに思いながら、自分も眠りにつくことにした。
実のところ最近は、例の本の挿絵が気になって仕方がなくて、適当に募集した下働きを何人か“開いて”見ると、驚くことに尊き身分である貴族と、下々の民の体の『中の造り』は等しく挿絵と同じであったので、「そこいらの行き倒れの骨でも大丈夫だ」そう教えてやってもよかったのだが、
そうして彼は自分も布団に横たわり、あまりの警備の厳しさに手も足も出ない
夢の中で彼はひとりで立っている
「!!!!」
頭から真っ二つにされた
法師の願いを断った彼は、そんな風に平穏な日々を送り、
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