第147話 追走曲 14
一方の姫君を追った
そしてなぜか、広大な庭にいたのは
「なぜ、ここにおる?」
「先程まで
“六”は
「それは“
「さようにございます。
彼の返事に
「そなた帝の
「さすがは帝の宝物、すべてが紙の世界になる中でも、正しき姿を保っておりましたので、なにか役に立たぬかと持ち出し、目の前の壁を壊そうかと思ったのですが、残念ながらわたくしには重過ぎて、引きずるだけで精一杯でございました」
「帝の槍を引きずった?」
唖然として呟いた
「職務上、薬箱を手放す訳にも参りませんし、ここまで引きずってくるだけでも大変でした」
「このような時ゆえ、薬箱の方は手放すべきだったな」
移動させるだけでも、大の男がふたりがかりの
「これ、扱えますよね? この際ですから、これで猿と壁を、なんとかしてもらえませんか?」
「……二人とも巻き添えにならんように、頭を低くしておけ」
“六”は、ため息をついた
宮中の宝物、
大きく深呼吸をした
ひゅうと、大きくうなるような音がして、ふりしきる藤の
案の定、突然現れた敵である彼に、牙をむいて飛びかかる猿どもを、彼は次々と薙ぎ払い、刺し貫いていった。
内裏での流血はご法度であったが、もうこの際であったし、葵の君と違い、彼には怨霊であっても人であっても、先の反乱平定でも見せたように、手を汚すことができる、血で血を洗う戦場を乗り越えた強さと覚悟があった。
しかし不思議なことに、猿は切られると同時に消えてゆき、その場に飛び散ると思われた血しぶきは一滴もなく、ここでも黒い墨の
ふところの短刀を出したものかどうか、大いに悩んでいた
やがて
「大丈夫だろうか……」
「いえ、わたくしも朝廷に仕える身、なにかお役に立つこともございましょう」
彼はそう言って、手にしていた大層な細工の施された金細工の槍の
「忠義、ご苦労である」
そう言った
「随分と時間を無駄にした。葵の君はご無事だろうか?」
「急ぎましょう!」
三人は庭の壁を乗り越えて、姫君が消えた方角に向かった。少し大回りにはなるが、一丈(十尺/約3m)もの
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