第137話 追走曲 4
「おや、お早い出仕にございますね」
あの時、関白が現れた大騒ぎの日に、左大臣家の姫君の出仕を望んだのは本心であったが、自身の出世のための大切な『駒』であった妹宮が“
それでも左大臣の無能さゆえ、関白が引退する秋までの辛抱と、
それらすべては帝と、それを取り巻く皇子や親王たちの徳を持って、こともなく収まるべきものであり、今現在の雲ゆきの悪い世情は、摂関家を中心とした貴族たちの忠誠心と、信心が足らぬからだと思っていた。
ゆえに
「つまらぬ真実よりも、真実をひと匙混ぜた、
朝がすっかり明ける頃には、
そう思い、満ち足りた気分で、うたた寝をしていた
案の定、集まった公卿たちは、それぞれにツテのある宮中の女房たちから“
やがて、官吏を従えた
『そなたがおらねば、わたしが要らぬ苦労をすることも、なかったであろうよ』
「本日の朝議、関白は御欠席、帝への奏上は見送りにございます」
「さて、こうしていてもいたしかたがない。公卿だけで終わる案件を片づけねば!」
本日の最高責任者である右大臣が、気を取り直してそう言うと、周囲もそれなりに動き出し、朝議の時間は刻々と過ぎていった。やがて昼過ぎに終わりをむかえる。
他の省との折衝ごとで、まだ多くの公卿や、その省の官吏たちが残って、非公式に話を続ける中、
彼は怪訝な顔をする。
それなのに、今日は特段の用事もないのに、彼はわざわざ
「公務の忙しさに、まだ婚儀の祝いを述べていなかったが、なにやら
「なんの話ですかな?」
自分の謎かけに平然と返事をする
うわさという名の『毒』が回り切っていることに、確信しか抱いていない
いまいましい
「いやいや、ご同情申し上げる。帝をあっという間に篭絡した
「
腰を抜かさんばかりに、大いに慌てると思った
それぞれの打ち合わせに、ざわついていた周囲も、
「一体、なんの話をされているのか……昨夜、
「な、なんだと?!」
なぜこの男が、こんな風に落ちついていられるのか分からなかった。そうこうする内に、いつの間にか気づかぬうちに、
「少なくともわたくしが、その場に居合わせたことは保証いたしますし、
別当が口にした言葉も、真実を混ぜた嘘に近かったが、彼は
「恐れながら、
〈
「は、は、は……」
「お風邪ですか?!」
朝議で公卿たちが、右往左往している頃、葵の君が体を震わせてから、くしゃみをしそうになったのを見た紫苑は、心配になって姫君の額に手を当てていた。
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