第133話 東雲の前 2
元々、鋭い
「安心してくれ、誰の目にも入っていない。わたしが
「
手渡された髪飾りを手のひらに乗せたまま、
「それが不可解なことがあってね、そこがわたしにも分からないのだよ」
「不可解?」
「昨夜、
「葵の君……」
そんな
「いや、
「気が変わられたか……」
「どうだろうね? そこがおかしな話だが、帝は確かに眠っておられたが、まるで“気絶させられた”そんなご様子だった」
まさか、姫君に武道の心得があるなんて、検非違使の別当と同様、月よりも遥か遠く、およびもつかない考えだったので、別当は安堵の息をつく
薬師如来の眷属には十二神将がいる。姫君は、なにかを“使役”でもしているのであろうか? 女の身では、
まあ、目の前にいる男も大概、変わった存在で、数奇な運命の持ち主ではあるが。
彼は幼い頃の出来事を記憶している。
後宮で起きた火事の日、自分も姉である女御のところに遊びに行っていて、あの時その場にいた。脳裏に焼きついているのは、迫りくる炎、舞い上がる煙、炎に包まれようとする、内親王であった三条の大宮の殿舎……。
身動きができず、姉宮と一緒に武官たちに抱えられながら避難して、意識を失った翌朝、目が覚めた時には、それまで、いまの帝にあたる東宮よりも、素晴らしい方なのに……そう自分が思っていた、美貌と才に恵まれながらも、不遇な皇子であった
そんな彼が「皇子と生まれながら、前世の行いが余程悪かったのであろう」そんな風に、世の中にうわさされるようになったのは、あの時、誰よりも先に逃げ出した、
彼は常日頃から、自分よりも血筋が劣るにも関わらず、ひい出た美貌と才を持つ
そして、姉宮と一緒に避難していた、いまの帝の亡き中宮は、ご自分の娘である内親王(三条の大宮)の、命の恩人である
観音菩薩の化身とまで言われていた、表向きは誰よりも慈悲深く優しい女は、酷く醜い笑顔を浮かべていた。あの女は、
あの時、幼かった別当は思い切ってそんなうわさはおかしいと、姉宮である女御や周囲にも訴えたが、自分の声など取り上げてもらえる訳もなく、三条の大宮の懸命な嘆願の甲斐もなく、元皇子であった
なにが神聖で、なにが尊き血筋だと思う。あれ以来、自分は尊き血筋や、それにまつわる神話など信じてはいない。周囲は控えめで公正な青年だと評価してくれるが、ただ安穏とした生活のために、職務に就いているだけの情けない存在である。しかし、実のところ、
そんなことがあっても不遇にくじけることなく、何事にも真摯に取り組んできた、
しかし、いまの反応を見ると、彼は
「まあとにかく、昨夜なにもなかったのは確かだが、宮中の女房たち、特に
様々な思いを胸に秘めている別当は、そんな風に冗談めかしながらも、真剣な眼差しで、彼に忠告をした。そして
「昔のように帝と
「絶対にやめてくれ、あの時、わたしも落ちそうになったんだぞ? 忠告はしたし協力もするが、いまは、お互い立場がある」
船上の舞は定員が四人だったので、別当も頭数に同乗していたのだ。しかし彼は顔をしかめて、そう言ってから、くっと色っぽい笑みを浮かべて、ひと言をつけ加える。
「“面倒事は裏でやってくれ”」
彼はそう言うと、ひとつ取り出した“おからクッキーもどき”をポリポリ齧りながら、大事そうに箱を抱えて清涼殿に近い、自分の曹司に帰って行ゆく。
そろそろ、帝が起き出す時間であった。別当は、あの日から止まっていた、自分の時間まで、動き出す気がしていた。
*
『平安小話/お使いの途中で、陰陽寮の横を通った紫苑』
“弐”「大人っぽくなったね――」
紫「そうですか? えへへ」
“弐”「なにか、字名とかも考えないとね、紫の君とか!」
紫「///」
“六”「歯ぎしりの君……」
紫「ひどい!!」その辺にあった、碁石の入れ物を見つけて、碁石を投げてる。
“六”「ピッタリなのに……いててっ!」
“弐”「本当のことを言ってやるなよ!!」
“参”「わたしの碁石が!!」帰ってきたら、白黒、入り混じって、部屋中にブチまけられていたのでした。
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